私には難しすぎる作品たち~森 鴎外編
鴎外氏の基本的な特徴は、保守的エリートの地位を道徳的に弁護し肯定したことにあるといわれます。この特徴は、同時代の四迷、一葉、漱石と対照的です。
鴎外氏は、エリートとして非難される側面を道徳的に弁護した点で漱石とまったく逆の立場にあり、二人がともに文豪と称されるのもそのためです。
明治の日本が西欧諸国に追いつくためには、発展を担う人材の育成が急務であり、人材は少なく貴重であったために、一方で実質的に発展を担う優秀な人材を生み出すとともに、他方では、そのエリートの特権的な地位によって堕落する人材をも多数生み出しました。
鴎外氏はこのエリート内部の対立のなかで生じる日常生活での
瑣末な不満を表明し、また瑣末な批判に対して自己を弁護しました。エリートやブルジョアは上からの改革を担う積極的な力をもっていましたが、鴎外はその役割を担うことなく、その役割に対立しつつ、エリート内部で生ずる道徳的な批判から自分の地位と名誉を守るための独自の道徳的な精神をまとめあげました。
漱石氏と鴎外氏の両文豪に見られる対立関係は基本的には明治の必然の反映ででした。大正時代には鴎外は自分の使命を終えています。漱石氏は明治の精神の終焉を客観化して描写し、新しい精神を形成するにいたりましたが、鴎外にはそれはできず、過去の歴史的な実証的な世界に住処を求めました。
私も氏の過去の歴史的な実証的な世界のなかの作品を理解できず、随分迷ったものでした。いろんな分野で論評の多かった鷗外氏は代々津和野藩主、亀井公の御典医をつとめる森家では、祖父と父を婿養子として迎えているため、久々の跡継ぎ誕生でありました。
幼い頃から論語や孟子やオランダ語などを学び、藩校の養老館では四書五経を復読。当時の記録から、9歳で15歳相当の学力と推測されており激動の明治維新に家族と周囲から将来を期待されることになった。このような経緯も彼を明治詩壇に大きな影響を与えた『於母影』(共訳)を発表し、弟の三木竹二などと文芸雑誌『しがらみ草紙』を創刊しました。
海外文学の翻訳も多く始め(『即興詩人』『ファウスト』などが有名)、以後、熱心に啓蒙的文筆活動をすることになります。当時、情報の乏しい欧州ドイツを舞台にした『舞姫』『うたかたの記』『文づかひ』を相次いで発表。とりわけ、日本人と外国人が恋愛関係になる『舞姫』は、読者を驚かせたとされています。ちなみに、そのドイツ三部作をめぐって石橋忍月と論争を、また『しがらみ草子』上で坪内逍遥の記実主義批判して没理想論争を繰り広げています。1894年(明治27年)から翌年まで日清戦争に軍医部長として出征させたのかもしれません。
中学で学んだ時の作品があまりにも難しくてそれ以来、苦い思い出しかなかったのですが、せめて、『雁』や『舞姫』(は読んでおかなくては恥ずかしいと思い古くなった
それらの本をさらっと読んでみてみましたが『雁』はとても読みやすく、高利貸しの妾・お玉が、大学生の岡田に慕情を抱くも、結局その想いを伝える事が出来なかったという、はかない心理描写を描いた作品です。ただしそれを、岡田の友人が語り手となって書いており、その友人が知りえないような、お玉と夫との諍いなども描かれており、鴎外氏の手違いではないかと思われました。この語り手がのちに高利貸しになってその男から聞いたという説もあります。結局、内容はなんとなく解ったものの何を言わんとしているのか、やはり理解に苦しむ事に・・・
『山椒大夫・高瀬舟』はどれも優れた作品でしたが、個人的 には、彼の死生観が表れている『高瀬舟』は良かったと思います。この物語を読むと、「生とは何か?死とは何か?」ということを考えずにはいられなくりました。
助かる見込みのない病魔に侵された事で喜助の弟は自殺を図りますが、それは「兄にこれ以上迷惑をかけたくない」という気持ちからでした。病気による肉体的苦痛、家族に迷惑をかけているという精神的苦痛、そして経済的負担と対峙しなければならなかった弟
の行為は、ある意味当然の事であったように思ええます。
一方、兄の喜助は、自殺を図ったが死に切れなかった弟に懇願され、弟の喉元に刺さった剃刀をゆっくりと引く。「弟の苦しむ姿を見たくない」という気持ちから・・・。これも当然の行為ではないでしょうか・・・。喜助が弟を殺したのは事実であり、それが罪である事は間違ありません。しかし、弟を苦しみから解放するためにはそれ以外に手段がなかったとあるのですが考えさせられますね。
それを殺人とし、殺人と同様の罰を与えるという事が正しいことなのか・・・
オランダやベルギーでは、厳しい条件の下で安楽死が合法化されています。日本でも、安楽死や尊厳死についてもう少し活発に議論されてもいいのではないでしょうか。・・・
医療の現場や寝たきり老人の介護をなさっている方々は常日頃考えている問題だと思いますが・・・
「人間の本質」についていろいろ考えさせられる作品でした。私の理解力が足りないか、もう一度鷗外氏の作品は読み直さなければならない気がします。
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