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2009年1月31日 (土)

私の好きな作品たち~目取真 俊編

 期間工、警備員、塾講師などを経て県立高校の国語教師を勤めますが、2003年に退職。1997年、『水滴』で第27回九州芸術祭文学賞、第117回芥川賞受賞。2000年、『魂込め』で川端康成文学賞と木山捷平文学賞を受賞しています。

 沖縄の自然や風土、歴史に根ざした小説を発表。『水滴』『魂込め』には、沖縄戦の記憶を背負って生きる庶民の姿が描かれています。2004年には小説『風音』を自ら脚本化し、東陽一監督によって映画化されました。同作品はモントリオール世界映画祭でイノベ
ーション賞を受賞しました。主に短編が多いのですが、『虹の鳥』は基地問題や沖縄の暴力団にからむ若者の姿を描いた長編です。季刊『前夜』1-12号に「眼の奥の森」という短編連作を発表し、沖縄語を使った表現も試みています。Isono001

『水滴』は、徳正という名の老人の片足が、ふくれあがり、中は「ただの水」のようですが、不思議な力をもっていたりします。これに気がついたのは、徳正と同い年の清祐という厄介者だけ。彼は一儲けをたくらみます。大学病院に入院を勧 められても拒み、徳正は苦しみ、妻のウシは不安ながらもせっせと看病と家事と畑仕事の毎日を送ります。徳正の戦争体験が織り込められていますが、経過した時間の長さがきちんとある書き方がされていて、徳正があざとく戦争体験を糧にして生きてきた様子も描かれています。徳正の足に溜まった水がなにを意味していたか色々考えたりすると、奥深え考えさせられました。 ただ、『水滴』『風音』は沖縄戦のその後を扱った作品です。
 作者は書き下ろした『沖縄戦後ゼロ年』で「カルチュラル・スタディーズや癒しの島ブームなどでこの作品が一時的に持て囃される」風潮を快しとしない旨語っているので、「いい作品だった」「全日本人必読」などといったいい加減な批評は慎みたいところです。これらの作品はもちろんあくまで文学であり、小説であることは承知の上で、やはり作者の訴えは「沖縄について、戦争の実態も含めて多くの人に知ってもらいたい、観光でイイトコドリだけしないで欲しい」ということなのではないかと考えたりもします。

 『魂込め』は戦争で両親を亡くした男の魂が肉体を離れて海辺をさまよう。親代わりの女は、なんとか肉体に戻るよう懸命に魂に語りかけるが…。表題作「魂込め」ほか短篇六篇を収録。戦争と沖縄、新感覚で描く、記憶をめぐる物語。芥川賞受賞後、初の作品集です。濃厚な死と畏れが不思議な気を漂わせるも、抑制の効いた語り口で順当にストーリーを展開させています。情緒に流されることのない鮮やかな感情表現は秀逸だと思います。     

 沖縄の伝説と米軍、島の現実を、抑圧や葛藤に歪んだ語り手がくっきりと紡ぎだしています。表題の『魂込め』と『面影と連れて』などはまさに沖縄出身作家の趣きが強く、好奇心も読ませる要素となってしまう作品ですね。一方、少年が主人公の『軍鶏』他の作品は、時に熱くほとばしりIsono009 ながら、色彩豊かな感情が美しく自然描写もさすがです。

 『虹の鳥』は繰り返される肉体的、性的暴力の前に読者は始め戸惑うだろう。その拡大再生産される 暴力が臨海地点に達した時、それは無力に昇華してしまったように思いました。被害者が加害者に、加害者が被害者になる混沌とした展開は沖縄が抱える基地問題は言うまでもなく、アメリカの イラク占領においてもあてはまるのではないでしょうか。何か暗示的なリアリスティックな物語でした。 また私たちはあの夜の森へのハイウェイは日本本土までにも繋がっていることを忘れてはいけないと思います。

 戦後日本の「平和」は戦争では本土の捨て石に、その後は米軍基地の要石にされた沖縄の犠牲があってのもの。この差別の現実を変えない限り沖縄の戦後はゼロのまま。家族らの戦争体験をたどり米軍による占領の歴史を見つめ直す、『沖縄戦後ゼロ年』。

 この作品が私に何かを語りかけてきます。軍隊は住民を守らない。節目の六十年の日本人に、おびただしい犠牲者の血が証し立てた「真実」を突きつけられた気がします。
 そう、沖縄は観光だけを目的にしてはもはやだめなんですね。

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