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2009年1月29日 (木)

私の好きな作品たち~池澤 夏樹編

 今まで何故紹介しなかったのかと後悔するほど素晴らしい作品たちです。

1987年の芥川賞作品、『スティル・ライフ』は再読したいほどです。

 都 帰国後、初の詩集『塩の道』を出版。これは『ユリイカ』の編集長の誘いという[要出典]。1979年より『旅芸人の記録』(監督テオ・アンゲロプロス)の字幕を担当、これがきっかけでアンゲロプロスの作品の字幕を担当します。Higasiyama003
 詩は、1982年『もっとも長い河に関する考察』を最後に書いていません。以降数編のエッセイを出していましたが、1984年に短編小説『夏の朝の成層圏』を発表。小説家としてデビュー、中央公論新人賞を受賞した小説「スティル・ライフ」(『中央公論』1987年10月号)で第98回芥川賞を受賞となりました。

 『スティル・ライフ』はその文章を読んでその清清しい新鮮さ、文体の透明感に感動し、完成された小説として今すぐ読みたいという思いに駆られたものでした。文庫の『スティル・ライフ』はすごく心を潤してくれました。読んでいる途中も読み終わった後も喉だけでなく、精神的にもまるで清らかな水で癒されたような錯覚がしました。今もその時初めて買った文庫本を持っていて、時々読み返しています。何十回読んでも毎回新鮮な気分にさせてくれます。 そこにあったのは、ただただ静謐な世界。 派手なストーリー展開やどろどろした心理描写を一切排したところに、ただ在るだけで読ませる、そんな小説です。 詩人でもある著者の、原点にして真骨頂とも言うべき作品だと思います。

他にも『南の島のティオ』は受け取る人が必ず訪ねてくるという不思議な絵ハガキを作る「絵ハガキ屋さん」、花火で「空いっぱいの大きな絵」を描いた黒い鞄の男などの個性的な人々とティオとの出会いを通して、つつましさのなかに精神的な豊かさに溢れた島の暮らしを爽やかに、かつ鮮やかに描き出す連作短篇集です。第41回小学館文学賞受賞。

 清冽かつ理知的、明晰で的確な表現で知られる著者が、子供たちに向けて初めて書いた本。ということは、「子供向きの童話だろう」と思って読み始めると、それは嬉しい誤解だったことに気づきました。舞台は南の小さな島。主人公の少年は、精霊が引き起こす不思議な事件に巻き込まれたり、友達のために胸がどきどきするような冒険をしたり。自然だけでなく、人の優しさも心も豊かな島で、少年と、島にやって来た不思議な人々に、やたらに暢気な島の住人たちとの出会いを綴った十の物語です。読み始めてすぐ巧みなストーリーに引き込まれ、南国の花と果実の匂いの混じった濃厚な空気や高い山に吹く澄んだ透明な風、日向の乾いた太陽の匂いを深呼吸しながら読み進んでいくと、読み終わる頃には干したての布団にくるまっているように心がほかほかしています。日々の生活に心がちょっと疲れた時に効くビタミン剤。年に一度は読み返したい作品です。

『マシアス・ギリの失脚』は南洋の島国ナビダード民主共和国。日本とのパイプを背景に大統領に上りつめ、政敵もないマシアス・ギリはすべてを掌中に収めたかにみえた、日本からの慰霊団47人を乗せたバスが忽然と消えるまでは…。善良な島民たちの間でとびかう噂、おしゃべりな亡霊、妖しい高級娼館、巫女の霊力。それらを超える大きな何かが大統領を呑み込む。豊かな物語空間を紡ぎだす傑作長編です。谷崎潤一郎賞受賞作。
 主人公は大統領です。経済・政治の問題がいやおうもなく関わってきますが、それと同時に土着のファンタジーが領域を消してはいりこんでいます。マジック・リアリスムとして上出来です。かつては戦争であったものが、経済や政治の問題になっていると、感慨深いものがあります。
 私が感心したのは物語に関しての考察です。物語というのはKaii002 決して真実ではありません。そこには語り手と聞き手の存在があり、伝承という要素もあります。島の老人が子供たちに聞かせる昔話は現代の島の第七位の巫女を取り巻く環境そのままです。物語はすべて多角的な面を備えていて、だから無限の可能性を持っています。マルケスらが継承してきた物語性を現代日本でもっともよく発揮した作品といえるでしょう 。

池澤氏自身が『読んでも読んでも読み終らないような長い物語を書きたかった』と語っていますが、確かに、淡々とした語り口が『長さ』を際だたせ、書き込まれた細部・脇役の魅力のおかげで退屈さ、中だるみとは無縁の作品に仕上がっています。一人の日本の技術者が、チベットの奥地に農業用の風車を立てる。主人公は、科学のかの字も知らない現地の人々に、風車のメンテナンスのための授業をし、主人公は、現地の人々が信仰している素朴な仏教に触れ、感銘を受けます。 というのがこの物語の大筋です。特筆すべきは、この物語がもともと読売新聞の連載小説であったこと。というのは、この物語の連載の中で、素朴で純粋なチベット仏教のすばらしさを描いていたまさにその時に、同じチベット仏教であるはずのオウム真理教が地下鉄にサリンを撒いてしまった・・・。物語は一時脱線し、オウムについて、アサハラについての作者ならではの考察をくわえていきます。事件の全貌がまだ見えない中で、作者はなるべく誠実に答えを見出そうとします。それがそ以降の主人公の行動や思想に深みを与えたに違いないと思います。もろ手を上げてチベット仏教万歳というのでもなく、自分と仏教は関係ないと突き放すのでもなく、彼らしい結論に達する過程は、物語というよりは一種のドキュメンタリーにも思えますね。

 池澤 夏樹氏の作品ははずれが無いといっても過言ではないと思います。

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