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2009年2月 4日 (水)

私の好きな作品たち~南木 佳士編

 最近医学の小説が映画やドラマになっていますね。『チームバチスタの栄光』『医龍』『コードブルー』などなど。

そんな中、南木 佳士氏の『ダイアモンドダスト』を思い出していました。本書を読んで、医師とは弁護士以上に心労の多い職業ではないか?と再確認しました。 人間にとって一番悲しいことは死です。それは死んでいく本人よりも残された人の方が強く感じるものです。その死を毎日のように直面する医師という職業はある意味人間としての感情を放棄した生き物なのかもしれないと思いました。そんな医師という職業につき、それについて多少矛盾を感じている著者だからこそ書ける小説だと思いました。文体も非常に美しく内容の濃さの割には読みやすかったのを思っています。
 淡々とつましく生きていく人たちを、そして死んでいく人たちを確かな筆致で描いた作品。第100回芥川賞受賞作です。

 南木さんという人が、地域の医療に従事する医者だということKaii013 や、難民医療日本チームに加わり、タイ・カンボジア国境近くに派遣された、ということにも興味を持ちました。そんなわけで、たまたま買っておいた「ダイヤモンドダスト」を、読んでみました。私が買った本は、1989年に第1刷で、それから7年目の1996年で16刷ですから、じわじわとそして相当な売れ行きだったんですね。なぜか私の記憶からすっぽりと抜け落ちているんですが。南木さんの芥川賞受賞の言葉が素晴らしい、「学校を出たての24、5歳の若者が、多くの想い出を抱え込んだまま旅立つ死者を見送ることは、苦痛であった。この苦しみから抜け出したくて小説を書き始め、もう10年になる」と。

 南木さんは1951年生まれの内科医で、現在でも文筆活動を続けながら長野県の佐久総合病院に勤務し、肺癌を専門分野として診療にあたっています。月~金は臨床医、土日は作家というような日常生活だそうです。「理想的な生活」と言えるかどうか、本人も「心を病んだ」ようですが、詳しくはわかりません。この本『ダイヤモンドダスト』は、芥川賞受賞作「ダイヤモンドダスト」の他、「冬への順応」「長い影」「ワカサギを釣る」という短篇3作、計4作品からなっています。主人公は医者の場合と看護士の場合があります。

 芥川賞受賞作の「ダイヤモンドダスト」は、浅間山麓の高原に建つ町立病院の30代の看護士和夫が主人公です。母は早くに他界し妻もガンで早逝、父と主人公と息子、三世代男のみの所帯が描かれている。ベトナム戦争ではファントムに乗っていたというアメリカ人
宣教師と、昔は草軽電鉄の運転手だった和夫の父が、2人病室で一緒になり話が展開していきます。生と死、家族関係、老人問題、都市化していく山村、等々、という現代の病根が詰まった重いテーマです。和夫の同級生悦子との対話や若い院長香坂との関係も、さらりと描かれています。僅か63ページの短編です。本の帯では、三浦哲郎氏が「100回記念にふさわしい出色の作品だと思う」と絶賛していますが、私が嬉しかったのは、もうなくなって何年になるでしょうか、吉行淳之介氏がまだ元気に選評を書いていることです。作品をナイフの切れ味にたとえて、切れすぎるのも困るが、この作品は過不足なくしっかり切れたと言い、「地味だが文学の本筋をゆく作品で、このところ『文学の王道』とか『志』とかいうと顔をしかめてみせる風潮がある。しかし、それは大きな間違いである」と断言し、南木さんを褒め称えていました。この言葉も重く、今だに覚えていてのかもしれません。

 ちなみに賞を貰った翌年、仕事中に突然発作に襲われ、うつ病、パニック障害の診断を受けました。『トラや』は、心身ともに生きる力を失っていた時期に家に住み始めた猫、トラと過ごした15年間を描く書き下ろし小説です。「具合が悪くなったころにトラが来て、私が元気になったのを見届けるように逝った。トラを通して、何とか生き延びてきた15年が書けるかなと思いました」
 このまま死んでしまうのか、と不安におののいていた時、足元にまとわりつく猫に気付き、餌を与えたことから「生きる側」に引き戻された。「過剰な自意識で疲れ切っていた自分に、お前も同じような体を持った動物なんだぞ、と思い出させてくれた」
 南木さんにとって、だからトラはペットというより共同生活者。4人家族の間にいて、さりげない仲介役にもなってくれた。「そんなに大事にしていたわけでもないけれど、いる、ということがとても大事だったんだなあ」。トラが死ぬ前年の夏、庭先で一杯やりながら一緒にくつろぐ写真に、静かに目を落としました。なんて優しい先生だろうと思いませんか?

 高度な先進医療も大事ですが、患者さんを人として接してくれる医師の存在はもっと大事な気がしたのでした。

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