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2009年2月 1日 (日)

私も戸惑った作品~モブ・ノリオ編

 芥川賞は時に何ゆえ?と頭を傾げたくなるう作品に出会ううことがあります。モブさんもその中の一人でした。『介護入門』と言う作品は思わず手に取りたくなると思いますというか現代社会では、こういう作品は多いと思います。その中でモブさんの作品が候補にあがった背景はよく考えれば、解るような気がしてきます。そこで選考委員さんのご意見を聞いてみると、

「主人公のちょいとふざけたラップ口調で語られる「介護する者」と「介護される者」との日々の辛さやいらだちや不安や怒りは、まことに正論である。」「だがその正論が、モブ氏がこの小説で使った口調によって価値を持ったとするなら、私はその点においてある種の危惧を抱かざるを得ない。」「それは単なる一過性の小技にすぎないのであって、一篇の小説が内包する本質的な深さとは無関係だからである。」と宮本輝氏。ちなみに■評でした。また、

「私は全く評価しなかった」「神ではない人間が行う「介護」という現代的主題の根底に潜んで在るはずの、善意にまぶされた憎悪とか疎ましさといった本Kiyohara001 質の主題が一向に感じられない。」「各章冒頭に出てくる「介護入門」なるエピグラフもことさらのアイロニーも逆説も込められてはおらず、ただ説明的なだけで蛇足の域を出ない。」と石原慎太郎氏。どちらも辛口批評でしたが、かと思うと

「《家と家族とを呪い続けた俺》から《世で最も恵まれた環境を授かった俺》への転生にして新生を遂げた場所、YO、教科書を丸暗記させられたように、無理矢理そう思い込んだんじゃねえぜ、朋輩(ルビ:ニガー)、そう感じる以外に辻褄の合わぬ現実を思い知らされたのだよ。」「言葉の過不足を量っていられるような境ではない。」という古井由吉氏や

「読み易い小説ではない。」「しかし読み進むうちに言葉に込められた熱が力に変り、作者の怒りがストレートに伝わってくるのが感じられるようになる。血の繋りという欺瞞に対する憤り、形式的な介護システムへの疑い、自分の生活からの出稼ぎとしての介護を否定する姿勢が鮮烈に浮上する。」という黒井千次氏。そして

「話の中心には祖母と母と語り手という聖家族がおり、ここにだけ介護を通じて発見された本当の愛がある。作者はこの発見を世に伝えるために小説という手段に訴えたかのごとくで、この初々しさは好ましい。」とする池澤夏樹氏ら肯定派が若干多かったという結論です。

「介護入門」の主人公は、俺、29歳、無職の自称音楽家、僅か週3日、小学生相手のアルバイト。頭は金髪に染めていて、マリファナ常習者。どこから見ても、老人介護に携わっているという雰囲気はまったくありません。そんな若者が、80歳過ぎの下半身不随で痴呆症の祖母を、病院から引き取り、母親と交代で自宅で介護しているのです。昼間はヘルパーに任せても、夜は祖母のベットの横の折り畳みベットに寝て、深夜2回起きて、祖母の股を熱いタオルで拭き、新しいおむつに替える。午前8時、介護ヘルパーが出勤する前に起床し、ベットを折り畳み、ポータブルトイレや室内用車椅子をセットするのです。

 マリファナ常習者であろうが、金髪であろうが、ラップ好きであろうが、全身全霊で祖母の世話をしていることには代わりが無いのです。なにしろ介護の描写は詳細を究めます。マニュアルを読むような、正確かつ念入りな描写です。俺はいつも、「オバアチャン、オバアチャン、オバアチャン」で、この家にいて祖母と向き合う時にだけ、かろうじてこの世に存在しているみたいだ、と言います。たまに見舞いに来る親戚からは「アンタ、毎日お昼まで寝てんのか?」と白い目で見られ、金髪の穀潰しと思われているのです。
 叔母に対しては、醒めた目で見ていますね。実の親が介護ベットで横たわる部屋の隣室で、「人間もこないなったら終わりやなあ、私やったら死んだ方がましやわ」と番茶を啜りながら嘆息している叔母。その叔母が、祖母の枕元で「お母ちゃん、辛いなあ」と無知特有の自己満悦にも等しい涙を流す。しかし、一度も襁褓を替えようともしたことがい。介護入門:「誠意ある介護の妨げとなる肉親には、いかなる厚意も期待するべからず。・・・」

「高齢化社会」と言うのは簡単ですが、その足がかりを見いだすのKatznoblog は困難です。僅か100ページの作品、著者モブ・ノリオの実体験が多く含まれているのでしょう。ちなみに著者の名前「モブ」は、「モバイル」の「モブ」かも?この作品を評して、「窮地の内にこそ、剥離解体しかけた言葉と、更に現実を回復する足がかりを見いだしつつあるとすれば、ここに今の世の、ひとつの、神話と言わず例話の、始まりがひそむ。」と、古井由吉氏も言っています。誰もが人事ではないと思いつつ、本当のシンドさを知らない気がします。

 私も何時介護の現実に見舞われないともわからない・・・でも親戚やヘルパーには頼りたくないとつくずく思いました。何年かかるか解らない、私がくじける可能性だってあります。でもモブさんが教えてくれた事は当てはめてみるといとんなことが当てはまってしまって・・・だから私は両親より長く生きたくないと思っていました。でもそれは違うと心から思えるようになれたのです。

これからは両親のために、いえ、両親と共に楽しい人生を送る方法を考えようと。私のよう半端な人間でも介護は出来ると思えるようになったから・・・・私は家族を最後まで守りたい、そう思った作品でした。

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