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2009年2月 8日 (日)

私の好きな作品たち~古川 日出男編

 1998年、『13』で小説家としてデビュー。2002年、『アラビアの夜の種族』で第55回日本推理作家協会賞・第23回日本SF大賞を受賞。2005年、『ベルカ、吠えないのか?』で第133回直木三十五賞候補。2006年、『LOVE』で第19回三島由紀夫賞受賞。素晴らしい!!

 私のお勧めは以外と(?)『13』なんです。1969年、橋本響一は左目だけが色弱という特異な障害をもって生まれました。高い知能指数と驚異的な色彩能力に恵まれた少年響一は、従兄の関口と共にザイールに渡ります。そこで彼が出逢ったのは、片足の傭兵「13」を通じ、別人格を育んだ少女ローミでした。驚異の体験を経て渡Tana02 米した響一は、26歳の時にハリウッドの映画製作現場で神を映像に収めることに成功するのです。溢れ出さんばかりの色彩と言葉、圧倒的なディテールが構成する、空前絶後のマジカル・フィクションです。
 行間を読むことを許さないほど詰めこまれたディテールに圧倒され、気づけば私も奇跡の現場へと流されているのです。いつもなら苦手なジャンルのはずなのに不思議な世にワープした感じでした。

 『ベルカ、吠えないのか?』も圧倒されました。4頭の軍用犬から始まる血の系譜、そこに連なるイヌたちの戦後史。
 その有用さゆえに、彼らはヒトのために殖やされ、ヒトのために改良され、ヒトのために生きて死んでいく。その過程で、イヌたちはしばしば他の犬種と、そして必要ならば狼とすら雑じる。ヒトによって意図的に番わされることもあれば、ヒトのくびきを噛み破って本能のままに為されることもあるが、(保護された)純血の力だけでは超えられない壁を、イヌたちはそうした力強い交雑と凄絶な淘汰の繰り返しによって突破していく・・・。
 そうしたイヌたちの血文字で紡がれた歴史上、ベルカ/ストレルカという最も「遠くまで」往還したそのイヌの名が、この物語の中でどう語られ、そして着地するのか・・・
 

 乾いた疾走感、吐き出される悪罵、濫造される死、執拗なリフレイン。この小説は、全体としては重厚な叙事詩でありながら、部分としては時に暴力的で、時に愛に満ち、時にナンセンスで、情感のままノイジーに掻き鳴らされるハード・ロックです。それだけに、その
文体はかなり読むヒトを選ぶかもしれませんね。ストーリーは犬の話を縦糸に、ソ連に裏切られた男の復讐の話を横糸に 編まれています。 最終的には一本につながるのですが。

 古川さんは20代後半から村上春樹寿氏に傾倒。若手作家が村上作品をトリビュートした「村上春樹RMX」シリーズ(ダヴィンチ・ブックス)の発起人となり、自身は「中国行きのスロウ・ボートRMX(のち『二〇〇二年のスロウ・ボート』に改題)」を手がけました。

影響を受けた作家として村上の他に清水邦夫や吉増剛造、ガルシア=マルケスやボルヘスなどのラテンアメリカ文学を挙げています。
爆笑問題の太田光やアジアン・カンフー・ジェネレーションの後藤正文、上述の向井秀など、芸能人やミュージシャンにもファンが多いというのですから、ちょっと安心しまし。

 『LOVE』は都市とそこで生きるものたちの喪失と再生を、鮮やHaruoinoue かにきりとった青春群像小説でなんとも新鮮で、神話的で、「すべて」がある世界なんだと思えます。

古川日出男氏は、我々の足元に広がる(でも、衰弱した我々には感じることのできない)「もう一つの世界」の匂いを嗅ぎ、その音を聴、見つめることができる。ちょうど、野良猫がそうであるように。それは、なんとも新鮮で、複雑で、神話的で、いいえ、、「すべて」がある世界なのでしょう。

僕は速度だ。
あたしたちは全員同じだ。
でも、あたしたちは全員、違うのかもしれない。
現代なんて三月後には消費されて、東京の記憶から消されるんだろうな。

古川日出男さん特有の短く切ったスピード感のある文章に捕らわれると、胸倉を掴まれたみたいに物語にひきこまれます。二人称で語られる物語も最高です。そして登場人物の名前がいつもながら冴えていますね。そんなこんなでで結局買ったその日に読みきってしまいました。
猫がかなり重要な役目を果たすので、「ベルカ、吠えないのか?」と対になっていつのでしょうか?となんとなく思いました。「沈黙」に対しての「アビニシアン」のような。雰囲気としては「サウンドトラック」や「gift」なんかに似てるような・・・

 そして古川さんの集大成でもある『聖家族』。これは読まなければいけません。きっと病みつきになるでしょう・・・

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