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2009年2月19日 (木)

私の好きな作品たち~石川 達三編

 石川 達三氏といえば『蒼茫』と連想してしまう私ですが、1935年の作品というとびっくりされる方も多いでしょう。

『蒼茫』は1930年にブラジルに渡り、数ヶ月後に帰国。『新早稲田文学』の同人となり、小説を書くことから始まり、ブラジルの農場での体験を元にした作品です。

 戦前から戦後にかけて二十万人もの南米移民を送り出した旧神戸移民収容所。その建物がそっくり神戸・山の手の高台に残っていました。もう七十余年、阪神大震災にも耐えましたが、古びた五階建ては取り壊すか保存かで揺れています。
 第一回芥川賞の受賞作になった石川達三の『蒼氓』は、こ16183658at こが舞台になりました。神戸港から旅立つ家族連れはいったんこの施設に移って、日本での最後の8日間を過ごしました。ほとんどは故郷をすてた農民たち。期待と不安に揺れる思いを抱き、語り合い、やけ気味にふるさとの民謡を唄う・・・ 二十四歳の石川氏は「若気の至り」から、家族移民ならぬ単独移民として、九百五十人の移民団にまじってブラジルに渡りました。目にしたその人たちの生活は厳しくも悲しい・・・「私はこれまでにこんなに巨大な日本の現実を目にしたことはなかった。そしてこの衝撃を、私は書かねばならぬと思った」。石川氏は後日『出世作のころ』で述懐しています。

 <彼等のみならず殆どの全部の移民が希望をもっていた。それは貧乏と苦闘とに疲れた後の少しく捨て鉢な色をおびていた、それだけに向こう見ずな希望であった。最初この収容所に集まってきたときは、風の吹き溜まりにかさかさと散り集まってきた落葉の様な寂しさと不安に沈黙してきたが、日を啄うて海外雄飛の先駆者、無限の沃野の開拓者のように幻想するようになったのである>

 石川氏はこの小説で、貧しい暮らしのなかで、希望を見い出そうとする素朴な日本人を描きました。恋しい人に後ろ髪をひかれながらも弟にしたがっていく佐藤夏、「徴兵逃れ」という非難に身をひそめる弟の孫市。二人の主人公を含めた移民たちの多くは、事実上、日本から切り捨てられた「棄民」だった。しかし、うらみごとは聞こえてこない・・・ 移民を送り出した建物は神戸の山の手になじんでいた。昭和四十六年に移民業務が終わって神戸市に移管され市の看護学院となり、つい最近までは神戸海洋気象台の仮庁舎でした。船室を模した低い天井、むき出しの配管は建設当時のまま。外壁をはうつたが時代を感じさせます。出港の朝、移民の人々は靴ずれの痛みをこらえ、鍋や釜を手に港に向けて歩きました。突堤までの道は三ノ宮の繁華街を抜ける二キロ。坂道をくだると見え隠れしていた海は、ビルにさえぎられた・・・コンテナ貨物を積み下ろしする第三突堤が当時の乗船地でした。小学生たちが小旗をうち振り、歌って移民見送った埠頭。いまは釣り人がのんびり糸をたれています。
「移民館は神戸の歴史を語る生き証人、日本の近代史を語る証人ですよ。だから残したいんです」と案内してくれた神戸市国際部長、楠本利夫さんは力をこめました。しかし震災による市の財政危機を救うため売却話も出ます。玄関脇の「ブラジル移民発祥の地」の記念碑がわずかにこの地を教えてくれます。さきごろブラジルの在留邦人会から記念館として保存してほしいとの陳情が神戸市に寄せられたのです。

『蒼茫』とは「もろもろの民、すべての人民」という意味です。田畑や家財一切合財を手放して出てきたのに、病気で渡航を許されない家族、思う人と 別れて船に乗る娘、煙管を握りしめて、周りに心を開かない婆さん……酒を飲んで景気 よく踊ったり歌ったりしている男たちでさえ、どこか暗く見えてくる。 。日が経つにつれ、幸も不幸もひっくるめ て現実を受け入れていく登場人物たちの姿の、そのエネルギッシュなこと。 そして、第三部のラストの、ブラジルの日差しをあびる移民たちの姿。 階級社会、人Deko0625 間のもつずるい一面など、考えさせられる部分も多くありましたが、なに よりも、生きていくエネルギーをもらえる、そんな小説でした。

 『四十八歳の抵抗』は五十五歳停年の時代に、退職が現実のこととして見えてきた保険会社次長の西村耕太郎の話しです。家庭を持ち、何不自由ない毎日を送っているが、心に潜む後悔と不安を拭えない。その心中を見透かすかのように島田課長にヌード撮影会に誘われる。日常への「抵抗」を試みた西村は、酒場で知り合った十九歳のユカリと熱海に出かけるが―。書名が流行語にまでなった日本的男性研究の原典です 。
本作品では老年にさしかかった主人公が、今までの平凡な人生から一歩踏み出そうという葛藤が描かれています。会社でこそ次長の立場にある主人公も、家庭においては妻子には相手にされないという典型的なオヤジ。しかもいまさらのように若い娘との恋愛にワクワクする一方、娘の恋愛・結婚問題に過敏になる二面性に気づいてその矛盾とも暗闘しています。
 全体にゲーテ「ファウスト」を案内役としていますが、、いろいろな個性の人物が登場し、案内されるままに飲屋街を彷徨う辺りは、それが近場の温泉街であっても、幻想的な雰囲気すらします。
 逡巡と内省を繰り返し、外部にも翻弄されながら、最後の落としどころとしてはこの作家らしいと思えます。そこがまたこの作家の限界として好き嫌いの分かれるところかもしれませんが・・・
ところで、現在の同じ年齢ではこれほど枯れていないのではないかと思うのですが。それは時代がもたらした幼稚化なのでしょうか。喜ぶべきなのか、憂うべきなのか、石川達三氏に聞いてみたいところですね。

 『青春の蹉跌』はこの本は、読み進むにつれある程度の展開は読者も想像に難くありません。 しかし、そうでありながらも「何故、何故?」と心を揺さぶられてしまう魔力があります。 主人公の青年の持つエゴは、形は違えども誰しも少なからず持っているものでしょう。 青年期に抱く閉塞感や末期感をグサリと書ききっている石川達三氏は恐るべしです。 決して今風の新しさや奇を衒ったところもない作品ですが、 今、10代の人が読めば返って新鮮な感もあるかもしれません。 自分にとってこれは財産かもしれません。

 これからも度々本棚から出してきて読むと思います。

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