« 私の好きな画家~マルク・シャガール編 | トップページ | 私の好きなミュージシャン~ジョン・レノン編 »

2009年3月30日 (月)

私の気になる作品たち~玄侑宗久編

 京極夏彦氏を思わせる文体に興味を持ち、調べてみる事にしました。芥川賞をとった『中陰の花』・・・小説を書く坊さんと言えば今東光氏、瀬戸内寂聴さんらを思い浮かべますが、色・恋・欲の世界を赤裸々に書いてベストセラーになった人たちであって、その限りでは解脱とは煩悩に身を焼く経験が必須なのだと身をもって説いていらっしゃると思います。「中陰の花」は現職の臨済宗僧侶の作品ですが爽やかなお説教であり、好感をもって読めた小説でした。この人、高僧にはなれないかもしれないが市井の名僧にはなれるかもしれないと思ってしまいました。一度本物の説教を聞いてみたいものです。
 ミステリアスなテーマです。「たたり」「霊障」「お祓い」「霊視」「予言」「背後霊」「金縛り」「憑依」「霊能者」「死後の世界」「離魂現象」等々死者にまつわる超常現象はいつの時代でもどの世界でも日常生活にある好奇のテーマのようです。
 高僧であれば快刀乱麻で解答を出すところですが、主人公は僧Hirayama001 侶なのですが僧侶にしては正直者で「あの世」を否定しているくらいですからこれらの不可思議現象を半信半疑で眺めているところもおもしろいですね。
 主人公は作者自身のようなのです、インターネットで「霊能者」を検索したり、過去帳をパソコンでデータ管理しているなんて実に親しみのもてる人物なんですね。禅に限らず、宗教は呪術とは違う、宗教に「霊法」を期待してもらっては迷惑だとおっしゃる・・・禅はきわめて現実的な生活哲学なのだから。これはなかなか説得性がありますね。

 作者の玄侑宋久さん、京極夏彦氏の『鉄鼠の檻』にいたく刺激を受けたと云っています。祈祷師京極堂こと中禅寺秋彦の哲学と類似点がありますね。
 でも、数々の不思議をおこした霊能者が死んで、どうもまだ「浮かばれないでこの世とあの世の境にとどっまているらしい」と、更に彼の奥さんは流産した子供の霊がさまよっている気配がすると、そこでこの魂を成仏させる感動的な奇跡をおこすお話です。
 私は超常現象など手品だと思っている不心得ものだから奇跡自体に驚きはしませんが、「成仏」とはなにか、これを深く考えさせてくれました。それはこの前の芥川賞『聖水』の印象があまりに強かったのですね。『聖水』は死にゆくものの「成仏」ですが、『中陰の花』は生きているものの「カタルシスとしての成仏」を説いている・・・・のだと思います。

「やはり世間で言うような『霊障』・・・・成仏できない霊のいたずらなのでしょうか。わかりますか?成仏の仕方なんて、だいたい亡くなった人が成仏してくれてるかどうかさえ私にはわかっていませんもの。私らが目指しているものも多分故人の成仏じゃなくて、残った家族の心の成仏じゃないのかなあ」そのとおりだと、私は覚醒しました。

 「死とは」「よく生きるとは」「死者との距離感」などの問題について、多かれ少なかれほとんどの人は疑問や不安感があると思いますが、この短編の中で著者は、亡くなった人の四十九日までの主人公の心の移り変わりを描いて「生命とは関係性を持つこと」というメッセージを紙縒りのエピソードを用いて極彩色に描いています。読み終えて、何か心が落ち着き、人に優しくなれるような、そんな小説でした。

 そして面白いなと感じたのは『アブラクサスの祭』です。この物語の主人公である僧侶の浄念は「分裂症まじりの躁鬱病」の患者であり、 それが彼のアイデンティティでもあります。 彼は通いの僧侶で、住職の宗に見守られながら修行を積んでいます。
若い頃はロック・ミュージシャンだった浄念は、僧侶としてのお勤めの合間に定期的にライブをやっているのですよ。 お寺は東北地のどこかにあるのですが次のライブはお寺のある町でやりたい・・・浄念は住職にそう申し出て玄宗もそれを承知します。この物語はライブの当日までの数ヶ月間について、浄念の日常と心の動きを追ったを作品です。「分裂症まじりの躁鬱病」を身近に経験したことがあるかたには、よりおもしろく読めるでしょう。私などうってつけですね。わたしは身近に経験していたことがあるので、ぞくぞくするほどのリアルな感じがありました。 あるシーンでは本を抱えて爆笑してしまったのですが、侑さんは病気の経験者ではないのかとしか思えないできばえです。並たいていのお坊さんではないですよ・・・と私が言っても説得力がたりないですね・・・ 

 他にも『まわりみち極楽論―人生の不安にこたえる』も説教じみていないで歩んできた道を解いて下さいます。素敵な作家さんに巡り合えた事に感謝しています。

|

« 私の好きな画家~マルク・シャガール編 | トップページ | 私の好きなミュージシャン~ジョン・レノン編 »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

とこさん、おはようございます。
今朝も冷えます。
リンクのご承諾ありがとうございます。
こちらの分まで考えていただいてすみません。
ココログでしたら、マイリストからできるのですが、ほんといつでもいいですよ(*^_^*)

こちらこそこれからもどうかよろしくですm(__)m

玄侑宗久さんの記事、おもしろく読ませていただきました。お若いと思うのですが渋いですね(*^_^*)
「中陰の花」、興味深かったですね。文学や芸術では大きなテーマだし、とても興味あるのですが、リアルにはわたしも「超常現象など手品だと思っている不心得もの」です。(*^_^*)
そして書かれてありますように成仏とはほんとに「残った家族の心の成仏じゃないのかなあ」とわたしも思います。葬式で稼ぐような坊さんの多い中、玄侑さんはとても興味深いですね。
最初に書かれていますように今東光氏、瀬戸内寂聴さん、並の煩悩じゃないですね。たしかにあそこまで行けばあとは解脱しかないのかもですね(^_^;)

また興味深い記事、期待しています(*^_^*)

投稿: KOZOU | 2009年3月30日 (月) 08時27分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/528484/28872426

この記事へのトラックバック一覧です: 私の気になる作品たち~玄侑宗久編:

« 私の好きな画家~マルク・シャガール編 | トップページ | 私の好きなミュージシャン~ジョン・レノン編 »