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2009年4月28日 (火)

私の好きな作品たち~トマス ハリス編

 『羊たちの沈黙』で一斉を風靡した原作者です。これ以前にレクター博士は登場しており、それが、『レッド・ドラゴン』です。

 内容は、かつて「人食い」ハンニバルこと殺人鬼の精神科医ハンニバル・レクター博士を逮捕したFBIアカデミー教官のウィル・グレアムは、目下世間を騒がせている一家惨殺事件の犯人を捜し求めていました。事件の全体図を把握しかねてReddragon001_2 いるグレアムは、なんとしても犯人の人物像を掴むべく、ハンニバルの収監されている療養施設へと赴きます。

 ハンニバルは、異常殺人鬼でありながら極めて高い知能を有しており、檻の中で料理や専門分野の書物を読み、科学雑誌にめざましい論文を執筆していました。ハンニバルのもとには、各地から彼を崇拝する様々なサイコ的人物からの手紙が届きます。その中には、殺人鬼の熱烈なファンレターも混じっていたのです。
 殺人鬼は、自分の持つ障害への劣等感や厳格な祖母へのトラウマに悩まされていました。しかしある日出会った、ウィリアム・ブレイクがヨハネ黙示録の情景に基づいて描いた水彩画『大いなる赤き竜と日をまとう女』に魅せられてしまいました。殺人鬼は「赤き竜」レ
ッド・ドラゴンを自分と同一視し、いつかは自分も竜になるのだと信じて凶悪犯罪を重ねていました。
 グレアムはハンニバルから殺人鬼のヒントを得て犯人を追い求めますが、同時にハンニバルはひそかにその殺人鬼と「文通」していました・・・。

 満月の夜に連続して起きた一家惨殺事件は全米を震撼させました。次の満月までに犯人を逮捕すべく、元FBIアカデミー教官のグレアムは捜査を開始します。彼は犯人像の手がかりを得ようと、以前連続殺人事件で逮捕した精神科医のレクター博士を、収容先の異常犯罪者専用の医療施設に訪ねた。犯人は次の殺害計画を練る一方でこうした動きを新聞で知り、グレアムをつけ狙い始める―究極の悪ハンニバル・レクター衝撃の初登場作。

 異常犯罪者とそれを追う捜査官というのは非常によくあるパターンですが、このシリーズはそこにある意味人間を越えた絶対的な存在としてのレクター博士を登場させ、犯罪者の方はそれに憧れ、捜査側はその力を借りて犯人に迫ろうとするというアイデアが素晴らしいと思います。レクターは凶悪な犯罪者で人肉まで喰らってしまう異常者であるのに、何とも言えない魅力も漂わせ、悪を憎む気持ちを持ちながらも知らず知らず惹かれていってしまうグレアムの苦悩も伝わってくるし、犯人の生い立ち、心理描写も緻密に作り込んであって本当に奥深い物語になっていると思います。最後の方では、少し犯人にも同情したくなるような気持ちにさせられました。
 タイトルの元にもなっているウイリアム・ブレイクという画家の描いた「大いなる赤き竜と日をまとう女」という絵にもすごく惹かれました。(実在の作品です)何とも言えない悪魔的な魅力を持った絵です。

 第2作目が『羊たちの沈黙』です。当然のことながら、89年、「このミステリーがすごい!」海外編でダントツ第1位になっています。
 小説と映画では、彼のかつての患者の一人であり女性を誘拐し皮を剥いでいるバッファロー・ビルに関する情報を得るため、若きFBI訓練生のクラリス・スターリングが、投獄されている社会病質の精神科医のもとに送られます。当初、クラリスと対面したレクター博士は「アカデミーに帰りなさい、クラリスお嬢さん」とすげなくあしらうのJodyfosuta ですが、彼女が囚人の一人に辱められたことに怒り、その非礼への償いとして最初のヒントを与えます。その後、クラリスの少女時代の記憶、秘められた過去の話と引き換えに、博士は彼女へ事件解決のアドバイスを与え続けていきます。白眉は、小説のタイトルともなった「子羊」とクラリスの関係が明らかになるくだりなのでしょう。
 この告白を聞いた博士は、初めてクラリスを「対等な存在」として接するのであり、博士の特徴たる丁寧な言葉づかいの一環である「ありがとう、クラリス」という言葉も、異なった重みを持って読者に響きました。
 作品を通して特徴的なのは、徹底して客観的な描写と綿密な科学的・医学的知識、それぞれの人物の精緻なキャラクター、破綻の無いストーリーです。クラリスとレクター博士との関係だけではなく、クラリスとアーディリアとの友情、クロフォードの妻ベラに対する愛情といった善の人間関係、あるいはバッファロー・ビルの倒錯した世界に見られる負の表現が、重苦しくも一種の荘厳さを以て、作品に迫力を与えました。

 そして『ハンニバル』は、トマス・ハリスの小説のハンニバル・レクター博士を主人公としたハンニバル3部作の3作目。『レッド・ドラゴン』『羊たちの沈黙』から続く完結編です。

 連続殺人犯バッファロー・ビルの逮捕を描いた『羊たちの沈黙』から十年後。FBI特別捜査官クラリス・スターリングは部下と共に麻薬組織との銃撃戦のなか、赤ん坊を抱いた組織の女ボスを射殺しました。そのことがきっかけでマスコミに叩かれ、FBI上官ポール・クレンドラーの嫉妬と執着も加わりFBI内部で窮地に陥ります。
 傷心のクラリスの元にハンニバル・レクター博士から慰めの手紙が届いきました。イタリアのフィレンツェが博士の居所と知り、逮捕に備えて密かに調査を始めます。その一方で博士による診療中、自らの顔面を犬に食わせ、瞼さえも無いままに寝たきりの身にされた大富豪のメイスン・ヴァージャーは、素顔を見せては恐怖に怯える少年の涙を冷蔵保存し、それをすすることで自らを慰めながらも、特別に交配し空腹の時には人間さえも食うように訓練した凶暴な豚を飼育し、機会があれば博士を食わせようと懸賞金をかけて復讐を企てていました。
 他方、イタリアの名家出身のパッツィ刑事は、ひょんなことからレクター博士を発見し懸賞金に加えて手柄を立てようと試みるますが、逆に博士に見破られ非業の死を遂げます。
 イタリアから逃亡した博士とクラリスが必ず接触するであろうというメイスンのもくろみは的中し、博士を拉致することに成功します。
捕らえられ拷問を受ける博士は痛みを堪えるべく色鮮やかな記憶の回廊に逃避・・・。そこへ博士を救出・逮捕すべく現れたクラリス。
彼女の奮戦によって博士は窮地を脱するが、怪我を負い博士の治療を受けます。博士を殺害し損ねたメイスンは、博士によって心の枷を
解かれた妹(かつて彼女はメイスンに性的虐待を受けていた)によって殺されます。メイスンと通じ、クラリスを窮地に追い込んだクレンドラーは博士の手に落ち、自分の脳を食わせられるという罰を受けて殺されました。
クラリスは博士に治療を受ける中で、父の死という心の傷を博士によって癒され、博士も幼少時に失った妹の存在をクラリスに重ねることにより、彼の心の傷も癒されていたのです。クラリスは博士から二度と解けることのない暗示をかけられ、そのまま2人で暮らし始めるのでした。この結末には思わず、頷いていた私なのでした。

 その後、『ハンニバル・ライジング』があるのですが、残念ながら読んでいません。何でも、ハンニバル・レクター博士の幼少期・青年期を描いた作品だそうです。どういう生い立ちをしてきたか、とても興味深いのですが、怖い、ひょっとしたら一番怖いかもしれません ね。

 トマス・ハリスは、地方紙「ニューズ・トリビューン」の記者ののち、ニューヨークのAP通信社でレポーター兼編集者となり、この間に犯罪の世界に関して貴重な洞察を得、のちに最初の小説を書くきっかけになったそうです。パレスチナゲリラによる、スーパーボール会場への飛行船によるテロという奇想天外なアイデアで、1975年『ブラック・サンデー』を執筆。ベストセラーとなりました。なお、同作品は映画化もされましたが、パレスチナ問題という微妙な問題を扱っていたため、日本では公開直前に中止に追い込まれました。

 大衆の前に姿を現すことがなく、非常に謎の多い人物だそうです。30年の作家生活で作品はこれら5作しかないという、寡作な作家です。

作品は全て映画化されていますので、GWどこにも行かない方は是非ご覧下さい。

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コメント

亀さんたちのブログへのコメント有難うございます。
亀さんは、高校のときは文芸班に入っていましたが、小説はあまり読みません。
とこさんのブログは「お気に入り」に登録し、時々お邪魔しているのですが、コメントを書くまでにはなっていません。
書けるときには、書こうと思いますので、今後ともよろしく!

投稿: 亀さん | 2009年4月28日 (火) 19時40分

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