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2009年5月 6日 (水)

私の好きな作品たち~笹本 稜平編

 サントリーミステリー大賞受賞作『時の渚』を読まれましたか?

内容は、ある事件の容疑者に妻子を車で跳ねれられ殺された刑事・茜沢はその捜査から外されます。われを忘れた茜沢は上司の制止も振りきり、辞表を叩き付け歯牙ない探偵稼業へ。そこに、かつての上司の紹介で余命少ない老人・松浦から人探しを依頼されます。その人とは、35年前に生後間もなく見ず知らずの女性に託したわが子。松浦のかすかな記憶の中の糸を頼りに人探しを開始する。一方、かつての上司・真田からある事件に茜沢の妻子を跳ねた容疑者・駒井が関係しているかもしれないことを告げられ、人探しと平行して駒井の周辺も探りはじめる。そして茜沢が追っている二つの獲物が微妙に関係していることが分ってくる。そして、その獲物は次第に重なりはじめる‥‥。

前半は淡々とハードボイルドな探偵小説といった印象。50ページSample_pic_06 ほど読んで、「結末が読めちゃった」と思ったのだが甘かったですね。後半に待っていたのは怒涛の展開。二転三転する展開に読むのを止められずに一気に読んでしまいました。
 感心したのは人物描写です。登場人物がリアルにイメージできるし好感が持てます。このあたりに作者の技量が表れてのでしょうね。後半のメインテーマは親子の絆。読んでて目頭が熱くなりました。さすがにミステリー大賞受賞だけのことはあります。

 このたび初めて読んだ笹本氏はどちらかというと「ハードボイルド」タッチの小説を書く作家のようで、この作品も謎解きミステリというよりもハードボイルドテイストの探偵小説というようなムードの小説なのですが、「いかにも・・・・・」のいやらしさがほとんど感じられませんでした。
 登場人物も自然な感じで嫌味が無く、わざとらしくなく、共感しやすいまともな人達で、文章もきちんとしていながら固すぎず、話の展開もうまいし、とにかく大変に上手なストーリーテラー振りだと感じました。
 親子の情の深さについて切々と語られる最終章部分では、どうにも涙が止まらず読み進むのに苦労しましたが、全体的にすらすら読めてしかもキチンとした重みを感じつつページを括ったのでした。
 話の展開は「そんなにも偶然が重なるものだろうか」との疑問が浮かばないわけでもないのですが、ふと思えば、人生はすべて「驚くべき偶然の積み重ね」で成り立っているものということを思い出し、文章や台詞回しの自然さが、そんな余計な邪念を払い落としてもくれるのでした。

 ダブル受賞した『太平洋の薔薇』は、不定期貨物船パシフィックローズ号は、最後の航海の途上にありました。船長は柚木静一郎。彼もまた、船乗りとしてこれが最後の仕事だった東南アジアを航海中にハイジャックされてしまうというあらすじです。

 現場は海賊の多発地域。
しかし、犯人グループの要求は奇妙なものだった。パシフィックローズ号を中心に日本、ロシア、アメリカなど色々な立場の人間が登場し、話が進むにつれて相互が絡み合っていく展開が良い(終盤放っておかれるキャラクターもいますが)。戦艦や潜水艦の小説を読んだことはありますが、老朽貨物船でこれほど興奮が生み出せることが興味深かったですね。
 ただ、物語の全貌が見えた終盤以降は失速しています。敵が急に弱くなっているし、ラストのまとめ方が甘い印象は否めなせん。。それでも全体的なクオリティは高いのです。これだけのボリュームが詰め込まれた世界を味わえるというのも、小説ならではの魅力でしょう。できれば映像化をして欲しくないです(削らなくてはいけない部分が多いだろうし、映画がダメだと原作も不当に貶められるので)。
 作品を読んで、歴史の勉強にもなりました。たとえば「20世紀前半、ヨーロッパで国家から大量虐殺(ジェノサイド、ホロコースト)された民族は?」という質問に、あなたはどう答えるでしょうか。ほとんどの人が「ユダヤ人」と回答するでしょう。でも、ユダヤ人だけではありません。アルメニア人も同じような目に遭っていたのです。このアルメニア人虐殺問題が、作品のキーワードの1つとなっています。
 この小説は大藪春彦賞を受賞しています。あまり気にかけていなかった賞なのですが、受賞作のリストを見ると馳星周【漂流街】 、福井晴敏【亡国のイージス】 、垣根涼介【ワイルド・ソウル】、雫井脩介【犯人に告ぐ】 、近藤史恵【サクリファイス】を過去に読んいたら・・。いずれも一定以上のレベルにある作品です。今後はチェックしていきたいものです。

 『天空への回廊』もエベレスト山頂近くにアメリカの人工衛星が墜落! 雪Shagaru006崩に襲われた登山家の真木郷司は九死に一生を得るが、親友のフランス人が行方不明に。真木は、親友の捜索を兼ねて衛星回収作戦に参加する。ところが、そこには全世界を震撼させかねない、とんでもない秘密が隠されていた。八千メートルを超える高地で繰り広げられる壮絶な死闘。

 作品のジャンルとしては、「冒険小説」としての要素が強いので しょうか・・・。親友・マルクを捜索するために回収班へと加わる郷司。マルクはどこに? そこが物語の入口ではあるものの、物語はどんどんと別の方向へと流れて行きます。マルクが発見されれば、意識不明のマルクが口走る「ブラックフット」に焦点があたる。その「ブラックフット」の正体も中盤には大まかなところで判明する。そして…。
 主人公・郷司は作中の殆どを過酷な山の中で過ごします。ちょっとしたことが命取りになる8000M級の山中。そこで繰り広げられる数々の事件。そして、そんな郷司を中心にして繋がって行く人々…。国際政治も、大国の駆け引きも関係のない郷司の心にあるもの。     そんな郷司を見守る人々…。終盤のこれらの人々の思い、郷司の心にあるもの…。この辺りに響くものがある。登場人物は多くいるものの、明かに描ききれていない者も多い。やや大風呂敷を広げ過ぎているように感じる部分もありますが、ご都合主義と感じた部もありますが・・・。欠点を探せば色々と見出せます。 ただ、そこを差し置いても読了後に感じたものは大きいのです。そこが、笹本作品の魅力なのかも知れませんね。

 久々の冒険小説にワクワク・ドキドキものでした。

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コメント

こんばんわ(*^_^*)
今日は暑くも寒くもなく最高でした。

サントリーミステリー大賞、懐かしいです。
わたしもチャレンジしたことがあります。
もちろん見事落選でしたが(^_^;)
時の渚、ライバル作として読みましたが、やっぱ違いますね。
感心しました。
これならわたしが落ちるのも無理はないと(^_^;)
 『天空への回廊』、知らなかったのですが状況は応募作とほぼ同じ、驚きました。
わたしのは「アンナプルナ・レクイエム」というのですが、同じようにアメリカの人工衛星の落下が大きな鍵です。
これ自体実話ですので、それから先、考えることはにてくるのでしょうね。
ただ実力が違うだけで(^_^;)
おもしろかったです(*^_^*)

投稿: KOZOU | 2009年5月 6日 (水) 21時03分

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