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2009年5月20日 (水)

私がやや好きな作品たち~乃南 アサ編

 アサさんを知ったのは直木賞受賞作『凍える牙』でした。でもあまり熱心には読んでなかったので今回開いてみて新たな発見がありました。深夜のファミリーレストランで突如、男の身体が炎上した!遺体には獣の咬傷が残されており、警視庁機動捜査隊の音道貴子は相棒の中年デカ・滝沢と捜査にあたります。やがて、同じ獣による咬殺事件が続発。この異常な事件を引き起こしている怨念は何なのか?野獣との対決の時が次第に近づいていた・・・。女性刑事の孤独な闘いが読者の圧倒的共感を集めた直木賞受賞の超ベストセラーです

主人公はシリーズ化されている音道貴子。このシリーズの長く続きましたね。ミステリーなんですが、この小説、男社会で働く女性の声を代弁もしてるような…ごく普通の女性が男社会で扱われる理不尽さ、腹立ちを貴子は噛み締めながら動くその描写が上手いですね。
 また逆に、男の側から、こんなところに女が加わって、ってい003bear_2 う思いや苛立ちも・・・更に家族とのしがらみ、悩みなんかも等身大に描いてる所為か、貴子にしても相棒を組むベテラン刑事・滝沢も読んでて共感できます。そして、この小説のポイントとなる野獣・ウルフドックの疾風(ハヤテ)。終盤、貴子と疾風が首都高を駆け抜けていく様は最高の画になるんじゃないかと思いました。

ぱっと思いつくところでは柴田よしきのRIKOシリーズもそうだし、横山秀夫の「顔」とか、女性刑事が出てくる小説もかなりありますが、だいたい女性刑事は一人で、男性社会に放り込まれて奇異な目で見られ、認めてもらえず、悔しい思いをしながら日々奮闘します。そして事件を解決。そんな内容が多かったように思います。そういうのは男性に受け入れられない、理解されない理由かもしれないなと思いつつ、私自身、そういうテーマの小説は「またか」と思うし、同じ女性として共感はするけれど、自分がそこまで仕事がんばってるわけでも女性だけど男性と対等に見られたいとか思って日々戦ってるわけでもないので、もう別にすすんで読みたいとも思わないテーマでした。

 この作品はそれがまた典型的にすぎる気がして。離婚暦があり男性不信気味の主人公、音道貴子と、相棒として組まされる、典型的なベテランたたき上げ刑事の滝沢。滝沢はいまどきあるのかってくらいの女性蔑視で、女だからと貴子を軽視し、なおかつどう扱っていいかからないものだから彼女を無視してかかり、貴子はそんな滝沢に反発しつつも懸命に捜査をしようとする。その二人が徐々に気持ちを通わせていく様子はそれなりに読応えはあったけれど、こういう作品の平均的見本として示していいくらい典型さがあって、私自身もそこにはあまり面白みは感じられなかませんでした。

でもすごく面白かった、とやっぱり思えるのは、犯人像です。というよりは、犬の存在でしょうか。音道がかかわる今回の事件。レストランで男がいきなり燃えはじめる。発火装置をつけられて燃やされたその男、他殺ということで捜査がはじまるが、遺体を検分し、大きな獣が噛んだ噛み痕があることがわかります。そして、海の近くで突然大きな獣に別の男が噛み殺され、連続殺人事件として、捜査は続きのです。音道と滝沢は、その大きな獣はウルフドッグという、狼と犬との混血ではないか、その線で捜査を進めるが、調べるうちに、音道はいつしかまだ見ぬその犬の存在が気になって仕方がなくなります。彼に会いたい。そう思うようになるのです。そして、音道は白バイに乗っていた経歴があり、現在も機動隊として任務を行っています。いざというときには、バイクに乗ってその獣を追いかけねばならない・・・・

 飼い主に忠誠を誓い、飼い主不在になっても飼い主の思いを遂行しようとする孤独な犬と、孤独な女刑事の魂の共鳴。大げさだけれど、そういうストーリー展開に私はすごく引き込まれた。この作品の主役は女刑事ではなく、犬だ。その犬の立ち居振る舞いは崇高で気高く思えて、彼の行動には私も目が離せなませんでした。人間の都合のいいように仕込まれてしまう彼だけれど、彼自身がそういう人生選んだようにも思えます。主人に仕える人生を。最後にはとにかく泣けました。犬好きだったから面白く読めたのかもしれないな、とも思います。ウルフドッグ・・・どんな犬だろう。狼みたいに美しいんだろうな。と、ホワイト家族のお父さんにそっくりな柴犬を見ながら思ったり・・・・それはともかく、どうやらシリーズもののようです。音道貴子のストイックな仕事ぶりは気になるけれど、もう犬は出てこないだろうし・・・。また気が向いたら読出み体本の中の1冊です。

 また『幸福な朝食』では、読み始めてまず気付くのは、独特の時間感覚によるストーリー展開です。説明も無しに登場するミカ。読み手の潜在意識にこっそり不安の種を植え付けます。そしてルームメイトの弓子の壮絶な死で、不安の陰は確実に延びてきます。その不安は、終盤の主人公 志穂子の狂気と正常との間の揺らぎへの長い伏線になっています。ストーリーにはさほど特別の山があるわけではありませんが、芸能界や演劇の世界でうごめく登場人物のそれぞれの心理描写、互いに相手の心の奥底を読むシーンが、緊張を生んでいます。人形のミカは、我が子供であり、解決できない自分自身の性格でもあります。ミカに象徴されるのは、人格の分裂でありながら、結末では自己回帰のための重要なポイントになっています。粗削りのような部分もありますが、 各所の意味合いに二重性を持たせているのも著者の魅力でしょう。著者のその後の活躍を十分示唆しています。

 そして『涙』は、昭和39年東京オリンピック前夜。一方的な別離の電話を最後に、挙式を翌月に控えた萄子の前から、婚約者・勝が姿を消した。刑事である勝には、ある凄惨な殺人事件の嫌疑がかけられていた。潔白を信じる萄子は、勝を探し出す決心をするが、同じ頃、勝への復讐を誓った男も行動を起こしていた―。川崎、熱海、焼津、筑豊、飛田、そして沖縄・宮古島へ―。すれ違い、裏切られ、絶望と希望の間で激しく揺れながら続けた孤独な旅の終わりに、萄子が見たものは・・・
 乃南アサさんらしいサスペンスとして描かれていますが、全国各地と舞台が変わる中、萄子の揺れる思い、そして娘を殺害された韮山の思いが複雑に交錯し、更に事件背景が徐々にわかるに従い、物語も段々と佳境へと突入する展開は最後まで目が離せませんでした。事件の真相はラストで明らかにされます、勝がなぜ姿を隠さなければならなかったのか、そして事件の背景には何があったのかは、登場人物の思いと共に本文でじっくりと味わえます。最後のエピローグで、もう少し韮山のその後と勝のその後を描いてほしかったものですが、物語としてはしっかりと堪能できましたし、一気に読まされたサスペンで、面白かったです。

また、『結婚詐欺師』は、2007年にWOWOWのドラマWで内村光良主演でテレビドラマ化されました。

 もっとちゃんと読んでいれば、最初から面白さが解ったのかと少し後悔しています。

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コメント

こんばんわ。
今日は暑くも寒くもなかったですが夜になり蒸し暑いです。

乃南アサ、これほど売れるとは思わなかったですね。
幸福な朝食ではサスペンス大賞はもらわず二番目だったですよめ。ただ確かに幸福な朝食はおもしろかったですね。
次第につのっていく狂気、サスペンスとして一級でしたね。とこさんの記事で名前とかも思い出したようです。
「凍える牙」読んでませんでした(^_^;)
とこさんの記事でもとてもおもしろそうですね。
ウルフドッグ、聞いただけで孤独に疾駆する美しい肉体のイメージがわきますね。
冒頭からして異様で引き込まれるでしょうね。
音道刑事、滝沢刑事もよく書かれているようですね。
滝沢刑事のような男は一昔前までたくさんいたようですね。
でも本当に主人公はウルフドッグのようですね。
とても興味を引かれました。
ありがとうございました。

とこさん、いつもコメントありがとうございます。
ちょっと暗めで重いのが続きわたしもいささか疲れ(^_^;)
時々こんな息抜きも入れていきたいと思いますのでどうかよろしくお目害します。

以下レスをコピーさせていただきます。

ちょっと重いのが続いたので今回は楽しくと(^_^;)
わたしは本来は犬派でネコは飼ったことなかったのですが、この頃ネコに惹かれます。考えたら小さい頃見た化けネコの怪談映画、化けネコがあんどんの油をちょろちょろなめるシーンに、トラウマが残ったかなと(^_^;)
ほんとにリンゴを食べて知恵を授かった人間、幸福であったかどうか、考えさせますね。
とこさん、ネコを飼ってあったのですね。そうですか。腕の中で亡くなっていったのですね。それはとても悲しかったでしょうね。家族の一員といってもよかったでしょうからね。
「明日を思い煩わず、昨日に苦しまず、今日だけを生き、今日だけを楽しむ。死すときも恐れず運命に従い従容と死す」本当にこのような境地になれれば怖いものなしですね。わたしも少しでも近づくようにしたいと思っています。

投稿: KOZOU | 2009年5月23日 (土) 23時04分

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