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2009年6月 7日 (日)

私の好きな歌舞伎役者さん~坂東玉三郎編

 玉三郎さんには、舞台に立つと、その瞬間にぱっとそこが明るくなるような華がありますね。女性から見ても魅力的です。玉三郎さんの舞台から醸し出されるその、命そのものが震えるような、初々しい気配に見せられてきた方も大勢おられるのTama001 ではないでしょうか。玉三郎さんは、子どもの時に病気をされて、その影響もあり、「いつ踊れなくなるか。明日もう舞台に立てないかもしれない」と思い続けてきたのだといいいます。遠い目標を立てるのではなく、「まずは明日」と常に「今、ここ」と「ほんの少し先」を大切にしてきのだと。
 「明日はどうなるかわからない」という切なさ、不安が、玉三郎さんの舞台のふるえるような初々しさを支えてきたのでしょう。映画監督や舞台の演出にも携わっている玉三郎さん。その中で、「他の人を成長させる」という喜びに目覚めたのだといいます。 「役者は基本的に自分自身が向上することに命を賭けていますから、他の人を成長させるということにそれほど情熱を傾けられるかどうかわからなかった。でも、そういうことができるように学習した」と玉三郎さん。
 他人の学びを助ける際に一番大切なのは、その人自身が何かを発見した時に、「そう、それ!」と横から指摘してあげることだといいます。学ぶということは、自発的に行われる時に最も進むのであるが、玉三郎さんのように経験を積んだ先達者が傍らで見守り、的確に「そう、それ!」と言ってあげることで、発見の喜びは増し、自信がつき、結果として学びの質が変わるのでしょう。
 相手のことをよく観察しなければならない、と玉三郎さんは言います。歌舞伎は、出雲の阿国から始まっていますが、人気が出た時、江戸幕府が女性が舞台に立つことを禁じました。そのような制約から生まれたのが「女形」。

 玉三郎さんが演じる女性は、「本物の女性」よりも「女」らしですね。男が女を演ずるということを、玉三郎さんは楽器による音楽の演奏にたとえます。肉体が楽器となるのだと。一つひとつの所作が、音符のような存在になる。所作を重ねることによってそこにはもともと存在しなかった「女らしさ」という「音楽」が生まれる。「女らしさ」は肉体に宿るのではないむしろ、抽象的な存在として、肉体を突き抜けた「向こう側」に見えるのでしょう。誰も見たことがないという、玉三郎さんの「振り切れた」踊りは、一体どのようなものなのでしょうか。
「神様が見ているのではないですか?」と尋ねると、「神様がいるかどうかはわからないけれども」と前置きした上で、舞台で踊っていて、「天が見ている」と感じることはあると玉三郎さんは言われました。
 踊っている最中に、何のためにそうしているのか、心許なくなることがある。そんなときの「最後の支え」が、「天が見ていらっしゃる」と思うことだと玉三郎さん。素晴らしいお話でした。

 私は生で歌舞伎を観たことがありませんし、歌舞伎云々と言いたいわけでもありません。ただ、美しい華のような方のことを知りたいだけなのです。1992年 映画『外科室』を初監督し、伯爵夫人と気鋭の外科医との秘めたる恋を見事に映像化されました。泉鏡花氏の小編を玉三郎さんが映画化しました。原作が短いだけに、映画も50分ほどの短編です。人で外科医の高峰(加藤雅也さん)が、貴船伯爵夫人(吉永小百合さん)の手術を担当することになりました。清長は高峰に頼み、その手術を見学させてもらうことになったのです。手術室の周りには、手術を気遣った貴顕たちが囲繞し、厳かなような、悲しいような、不思議な緊張感に包まれていました。手際よく進む手術の準備。しかし、いよいよ麻酔をかけようという段になって、伯爵夫人は「いや、よそうよ」と言い出したのです。驚き騒ぐ周囲をよそに、固い決心を相貌に漲らせている伯爵夫人。お付の者が、その理由を問うと、伯爵夫人は秘密を口走りそうで怖いから麻酔は嫌だ、と言うのでした。しかし、手術は喫緊の問題。遅らせるわけには行きません。それに肉を削いで骨を削る手術が、麻酔なしで行えるわけもないのです。しかし伯爵夫人は「手術をするのは高峰先生だろうね」と確認したあと、「さあ、殺されても痛かあない。ちっとも動きやしないから大丈夫だよ。切ってもいい」と蒼白な顔で言うのでした。その時、黙したまま座っていた高峰が立ち上がりました。手術を行うようです。押さえましょう、という看護婦に「それには及ぶまい」と答える峰の顔は、秘めた激情を強いて抑えているような沈鬱に満ちています。
「夫人、責任を持って手術します」と言う高峰に「どうぞ」と僅かばかりの笑みを持って答える伯爵夫人。メスが、伯爵夫人の胸にさっと走りました。薄く滲むTama004 のは、玉のような血です。さらに深くメスが伯爵夫人の胸を切開します。その刹那、起き上がることもかなわなかった伯爵夫人は、ぱっと上半身を起こし、高峰の胸にすがりつくのでした。「痛みますか」「いえ。あなただから。でもあなたは、あなたは私を知りますまい」と言うや否や、高峰の持つメスを深く突き通し、伯爵夫人は絶命したのです。「忘れません」という高峰の声だけが
、天井の高い手術室に響くのでした。今を遡ること九年前。まだ学生の清長と高峰は、小石川植物園を散策していました。折しも園内は躑躅が満開の季節。数奇屋からは検校の琴の音と錆びた声が聞こえてきて、より風雅を高めています。すると二人の前に、着飾った紳士淑女の一団が歩いてきたのです。風采の良い紳士、花と顕を競う妍を競うかのように華やかな娘たち。しかし、その中で最も艶やかなのは一人の貴婦人だったのです。思わず見とれる二人。特に高峰は、その貴婦人に放心の体で視線を注ぐのでした。「見たか」「うん」顔を見合わせる二人です。清長は画学生らしく咲き誇る躑躅をスケッチしています。しかし、ふと気づくと高峰が見当たりません。目で探す清長。いました。高峰は園内の小川のほとりに立ち、向こう岸を凝視しているではありませんか。そして向こう岸には、高峰と同じように凝視している貴婦人がいたのです。高峰と貴婦人の視線は、その一瞬を永遠に焼き付けたいと願うように、交錯して離れないのでした。
 清長が回想を終えると、隣では老人が気持ちよさそうに寝ています。清長は「ご老人。二人は天国に行くことがかなわないのだろうか」とつぶやくのです。まるで、一枚の絵を見ているような作品です。それも鋭い美的感覚に裏打ちされた、一幅の名画とでも言えば良いのでしょうか。実際に小石川植物園でロケをしているようなので、Tama002 躑躅の美しさも圧倒的。たまたま風が強い日のロケだったのでしょう。風にザワザワとなびく躑躅の花が、美しさとその後の悲劇を予感させて、風までが名演技だと感心してしまいました。そして箏曲も見事、ヨーヨーマのチェロも見事、と音楽までが一流です。吉永小百合さんや中井貴一さんは危なげない演技。淡々とこなしている感じです。加藤雅也さんは、台詞回しがおかしいような気もしたし、下駄を履いて歩いているシーンなどでは転ぶんじゃないかとハラハラしたりもしましたが、容姿で選んだのでしょうから、まあ納得です。
 ともあれ、決して「ああ面白かった」と膝を打つような種類のものではありませんが、展覧会で絵を見て、よく分からないなりに感心してしまったような気分にさせてくれる映画でしたね。

 歌舞伎に留まらず、近代劇(マクベス、エリザベス等)や映画(夜叉ヶ池、天守物語等)そして映画監督をこなす玉三郎さん。

 素敵過ぎます。

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コメント

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投稿: たらこ | 2015年8月 7日 (金) 14時26分

こんにちわ。
玉三郎さん、すてきですね。
それこそ男も惚れるです。
子供の時の病気は知りませんでした。今調べてみてわかったのですが、歌舞伎名門の出でもないのですね。
古い門閥制度は問題だと思うのですが、彼はそれに乗ったのでもなく文字どおり努力精進の人なのです。見直しました。
ほんとに書かれていますように、肉体を突き抜けた向こうに見える抽象としての女を演じているのでしょうね。それだけに女より女らしく人の心に訴えるのでしょうね。
「外科室」タイトルくらいしか知らなかったですがいかにも鏡花、耽溺の恋ですね。
映像も音楽もとても美しいようで心惹かれます。

投稿: KOZOU | 2009年6月 8日 (月) 15時22分

おはよーございます(^^)今日はいい天気です。

『遠い目標を立てるのではなく、「まずは明日」と常に「今、ここ」と「ほんの少し先」を大切にしてきた』
―いい言葉ですね。とても心に残りました。ここのところ自分を見失いがちなので、肝に銘じたいなと思います。

『男が女を演ずるということを、玉三郎さんは楽器による音楽の演奏にたとえる』
―新鮮ですね、こうゆうたとえに初めて出会いました。女らしさが肉体を超えた抽象的なもの、という考えも興味深いですね★


ではではっ(^^)/


投稿: yukidaruma | 2009年6月 7日 (日) 11時57分

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