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2009年6月23日 (火)

私の好きな作品~『町長選挙』

 伊良部一郎医師の人気シリーズ第3弾。残念ながらまだ文庫化されていませんが、人気ぶりからして時間の問題でしょう。本書は従来のテイストに加え、話題性と社会性を盛り込んでおり、伊良部医師もいよいよ表舞台にご登場かという印象を強く与えてくれました。某新聞社の会長兼球団オーナーの威厳ぶりや時代の風雲児と呼ばれた某社社長の人哲学などを描いた「オーナー」や「アンポンマン」といった作品は、懐かしい感慨めいた雰囲気に満ちていました。「カリスマ稼業」もおそらく同様ででしょう。

 話題性を優先する大衆メディアは報道内容が偏重し、十分なRock031 論議や総括をすることなく、次なる話題に飛びつき読者の関心を巧みに誘導する効能を有しています。むろんメディアのみの責任ではありませんが、メディアの作用は実に大きいですよね。かつての某IT企業による球団獲得・その後のラジオ放送社買収騒動事件は多くの人にとってすでに「過去のもの」として記憶されているでしょう。「時価総額世界一」と豪語された人生哲学も今では嘲笑の対象とみなされているのかもしれません。本書はいずれもそうした主題を「過去の話題」としてではなく、そこに潜む人間の深層心理とともにヘビーな作風というよりは新鮮な趣をもった内容として再生されてくれているような気がしました。

 本書は表題の「町長選挙」の他に「オーナー」「アンポンマン」「カリスマ稼業」という4つの作品が収録されています。

 『オーナー』は京グレートパワーズ(読売ジャイアンツ)のオーナーである、大日本新聞(読売新聞)社長の田辺満雄(渡辺恒雄)は新聞社の社長というだけでなく政財界に幅広く影響力を持っています。自身がマスコミの社長ではあるもですが、マスコミに諂うことを嫌い、1リーグ制導入を容認する発言で選手会およびファンにも嫌われていました。ナベマンというどっかの料亭のよーな渾名を付けられ連日マスコミの取材攻勢に合っていましたが、ある日突如として暗闇が怖くなってしまったのです。

 医者に見てもらうことを決めたナベマンは知り合いの日本医師会の委員長でもある伊良部総合病院の医院長に連絡を取り付けます。

てっきり自分のレベルなら自宅まで往診してくれるものと信じて疑 わなかったのですが、「いやだよーん」と拒否されてしまところなどとてもおかしいです。普通なら通院などありえないのですが、外出先の通り沿いに伊良部総合病院があったため顔を出してみることにしてしまいました。伊良部の元を訪れたナベマンは伊良部が自分に敬意を示さないどころか、命令口調で問診をすることに立腹していました。更に「例の」マユミちゃんの「とりあえず注射」を不覚にも打たれてしまいます。
 当然のように伊良部に憤りを覚えたナベマンはパニック障害を忘れようと努力あしますが症状は更に悪化してしまいます。そして、旧知の会社社長の退任パーティに参加した際、会場で伊良部の姿を見かけます。伊良部は大勢の前で「パニック障害、なおった?」とわけのわからないことをごちてナベマンをあたふたさせますが、パーティの帰り取材にあった際、またもやパニック障害に・・・
果たしてナベマンは病気を治せるのか?エンディング付近はいつの間にか「イイ話し」になっているところがさすがです。

 『アンポンマン』は、ITベンチャー企業ライブファスト(ライブドア)社長の安保貴明(堀江貴文)は今や飛ぶ鳥を落とす勢いでその事業を拡大しており、テレビでその姿を見ない日はありませんでした。安保貴明という名前より、世間的にはアンポンマン(ホリエモン)という呼び名が浸透しています。そんな安保は「稼いで悪いか?( 稼ぐが勝ち )」のサイン会でひらがなの「ま」が書けない自分に気づきます。秘書の美由紀(乙部綾子)は字が出てこない安保の様子を以前にも見ており一度治療を受けるように勧めていました。

 美由紀の進言もあり、安保は伊良部総合病院に出向きました。キーボードがなければひらがなさえも書けなくなった安保への伊良部の診断は若年性アルツハイマー。IT業界の寵児とも呼ばれるアンポンマンは診断内容を甘受できるわけもありませんRock184。非生産的な作業は安保は最も不快視するため、ひらがながかけなくても何の問題もないと判断し、業務を続けるが公開討論テレビ番組に参加しても文字が浮かばない安保。状況はますます悪化していくのです・・・そして治療のため(?)に伊良部が安保を連れて行ったところは・・・最後にキチンとアンポンマンが自信を取り戻すのはこのシリーズの定番なのですが、ホリエモンの現況を考慮すると今となっては、ある意味自信を取り戻さない方がよかったのかも・・・と思ってしまいます。

 『カリスマ稼業』は悪く、マネージャーの久美に精神安定剤を貰うように依頼しました。久美はバンド仲間で精神科の看護婦を務めている友人がいるので貰ってくることにしましたが、その友人こそがなんとマユミちゃんなのです。久美はクスリを貰ってくるため伊良部総合病院にいったのですが、注射を打たれて帰って来てしまいました。自然体が売りの白木でしたが、寝付けないのと同時に最近痩せなくてはいけないという強迫観念に囚われていました。
 午前中人前で過食気味に食べたお菓子を消化すべくどこか運動できるところを探していました。そしてたどり着いたのが伊良部総合病院だったのです。
 

 白木は早速エクセサイズマシンを病院内で組み立て運動を開始。普通なら「何やってるの?」というところですが、伊良部はこともあろうにそのマシンを白木から取り上げて自分で運動しはじめてしまいます。伊良部に暴言を吐いて病院を辞した白木でしたが、ふと我に返ると自分でも精神的におかしいなあと思い始めていました。
 

 数日後、白木に熱血大陸( 情熱大陸 )の取材が舞い込んできます。自然体であることを見せようとした白木だったが、ひょんなことから伊良部総合病院の精神科に通っていることがばれてしまいます。白木は次回の役作りのためと取り繕ったが是非とも取材したいとのオファーを断りきることができず、撮影クルーと一緒に伊良部の元を訪れてしまったのです・・・
 このラストもなかなか秀逸です。白木もこれで肩の荷が下りたことでしょう。でも、伊良部の功績というよりもマユミちゃんの活躍じゃないのでしょうか?・・・

 そして『町長選挙』です。この作品だけは有名人が出てきません。東京から数時間かけて船を乗り継いでやっとたどり着く離島、千寿島。
 ここでは小倉と八木という農業と土建屋という二者が有力者であり、日々熾烈な戦いが繰り広げられていました。その千寿島に東京都の職員として就職した宮崎は離島研修ということで赴任してきました。
 千寿島では町長選挙の真っ只中であり、役場でもその話題で持ちきりです。この島では小倉か八木かどちらについているかによってその後の待遇も変わってくるといいます。

 宮崎もその例に洩れず、両陣営からどちらにつくのかはっきりしろと言われ困惑気味。
そこに、父の意向(と見栄)により2ヶ月間千寿島に赴任することになった伊良部と日給3万円で離島赴任を受け入れることになった、マユミちゃんがやってきます。小倉、八木両派は伊良部の父が医学会での重鎮であることを知り、実弾(賄賂)攻撃に走ります。
 

 宮崎も両陣営から実弾を掴まされ、悩んでいましたがが、貰えるものは貰っちゃえという伊良部の発言に少なからず心が揺れるのです。
 前回の選挙結果は5票差という僅差だったため、小倉・八木も死に物狂いでした。選挙で重要となる浮動票として両者で読めていないのは島に住む老人達でした。千寿島の老人達はしたたかで「自分達に最終的に利益をもたらす公約を掲げる方に投票する」と最後までどちらに着くか表明していませんでした。

一方老人の心を最も掴んでいたのは、実は伊良部でした。伊良部Rock179 は病院で特に治療をするわけでもなく、老人達の話し相手になっていただけででしたが、それが老人達には嬉しかったようなのです。小倉、八木達は老人達の浮動票を確保すべく、更に伊良部に接触を図ります。ヒートアップした島を伊良部は治療できるのか・・・

 伊良部と時の人達の会話も想像していてかなり可笑しかったのですが、やはり表題の町長選挙のノリが本来の伊良部なのかなと思いました。
 しかし、伊良部一郎の産みの親、奥田英朗は凄いですね。このキャラをどう見せるかというところにかなり神経を割いているのではないでしょうか?伊良部は既に奥田英朗の机の上から飛び出して一人歩きを始めているように思います。
 全編一話完結のお話しなので、今まで「イン・ザ・プール」「空中ブランコ」を読んでいなかった人でもこの「町長選挙」から読んでみても全く問題ないです。ホントにおかしな精神科医の登場ですね。

 私、伊良部先生のキャラ、大好きです。

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コメント

…ちょっと熱くなってしまいました。(*´v゚*)ゞ
ちなみに、奥田英朗さんは、私も好きです。(◎´∀`◎)

投稿: Marunaga | 2009年6月25日 (木) 22時18分

とこさんへ

ホリエモンを題材にした『アンポンマン』、最後はとてもいい人でまとまっていましたが、ホリエモンとして考えると、やはり、あまり好きでは無いのですよね…。

「徹底抗戦」といった本に興味はあり、ザッと立ち読みはしたのですが、結構直ぐに買ってしまう私でも、この本に関しては、立ち読みするには手がだるかったのですが、購入する気になれず、ちょっと顔を顰めながらパラパラめくって目を通しました。

この本から、「本当に訴えたかったの!」という思いよりも、「商用目的なの!」という思いがなぜか伝わってきます。
…やはり、あまり好きになれないです…。

あ、内容が「徹底抗戦」に曲がって着地してますね。…すみません…。

投稿: Marunaga | 2009年6月25日 (木) 22時16分

とこさん、おはようございます。

嬉しいですね(*^_^*)
とこさんも伊良部センセーのファンとは。
空中ブランコ以来わたしも大ファンです。

書いて人を泣かすことは比較的簡単ですが人を笑わすことはなかなか難しいですよね。
そのなかで奥田英朗センセーがんばってますね。
笑わされるの大好きです。
町長選挙、よく社会の実情をとらえていますね。田舎は大なり小なりあんなものですよね。
高校の後輩だったアンポンマンには興味を持っていました。わたしはこれが一番おもしろかったです。エレベーター人生、ほんとにこれからどうするんでしょうかね。
オーナーもおもしろかったですね。
魅力的?な看護婦マユミちゃんにはとりあえず注射一本うってもらいたいような(^_^;

近海は今回でしたか(*^_^*)
いえ、わたしも打ち間違いよくやります。(^_^;)
作品だけは気をつけているのですが。
ほんとよかったら、いつかDVDを(*^_^*)
あのあと、レースだけを収録した映画もリンクさせています。レース後真っ先に電話したのはトム少年に(*^_^*)

いえ、こちらこそいつもコメント本当にありがとうございます。

投稿: KOZOU | 2009年6月23日 (火) 09時10分

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