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2009年6月18日 (木)

私の好きな映画~『それから』

 ご存知、夏目漱石氏の作品の映画化です。それまで夏目氏の作品は殆ど読みましたが、主人公の姿がうまく想像できず、悩んでいました。昔、加藤剛さんが出演されていて、そのイメージを植付けようとしたののですが、どうも違うのです。夏目先生のお顔が一番しっくりくるのですが、やはりそこはもっと想像を駆り立ててみたかったのです。女性像はいかようにも解釈できるので、誰という一人の女性に関わらず、作品によって、容姿を簡単に変えてイメー時できたのですが。

 そんなことも忘れてしまいそうだった時、『それから』が映画化されることを知りました。なんと主役が松田優作さんだと聞き、『えっ?』と声をあげてしまいました。何て表現すればいいのか、イメージが、離れすぎている気もするし、何かを秘めた部分があるところは似ているような・・・とにかく観に行きました。そして私はその映像美に釘付けにされてしまったのです。
 
 明治後期の東京を舞台に、親友の妻への愛に悩む主人公の姿を描いたもので、脚本は「ヘッドフォン・ララバイ」の筒井ともみ氏、監督は「メイン・テーマ」の森田芳光監督、撮影は「お葬式」の前田米造氏がそれぞれ担当でした。

 あらすじは、もうご存知の方が多いと思いますが、明治後期のYumeji001 東京が舞台です。長井代助は、三十歳になってもあえて定職を持たず、本を読んだり界隈を散歩したり、毎日を気ままに送る思索者でした。しかし生活に困ることはなく、父・得は大実業家で、兄・誠吾がその事業を継いでおり、次男の代助に多大な援助を与えていたからです。おかげで、代助は別宅を構え、老婢と門野という書生を置いていました。父や兄は、そんな代助に、早く身を固めろと説き、しきりに縁談を持ち込みましたが、その都度、何らかの理由をつけてはそれを拒んできました。そんな代助を、兄嫁の梅子や子供たちの縫と誠太郎が好ましい視線で見ていたのです。ある朝、代助に、親友・平岡常次郎からの便りが届きました。平岡は代助とは異なり、大学を出るとすぐに大手銀行に入社し、地方の支店に勤務していましたが、部下が引き起こした問題の責任を負うことになり、辞職し東京へ戻るというのです。平岡とは三年ぶりの再会になりますが、それは、また彼の妻・三千代との再会をも意味していました。三千代は、かつて大学時代、代助が想いを寄せていた女性で、親友・菅沼の妹でした。が、平岡もまた三千代に惹かれていることを知り、自らの義侠心にのっとった友情で、三千代を平岡に嫁がせたのです。

 上京した平岡は、明らかに変っていました。彼の三年間の社会人としての生活は、平岡を俗人に変貌させていたのです。金のために働くことには意味がないと言う代助に、それは世に出たことのない男の甘い考えにすぎないと、平岡は非難をあびせます。が、そんな代助に、平岡は自分の就職の相談を持ちかけるのです。一方、三年ぶりに会った三千代は、生活にやつれている様子はあるものの、以前にも増してしっとりとした美しさを備え、代助の心に不安な胸騒ぎのような感情が湧くのです。平岡のために、住居を手配し、果ては借金の口ききまで奔走する代助は、やむなく兄に頭を下げなした。そんな代助を見て梅子が力を貸してくれたのです。用立てた金銭のことで幾度となく三千代に会ううちに、代助は、過去に自分が選択した道が誤りであったことを深く実感します。平岡に三千代を譲るべきではなかったと・・・そして、三千代もまたかつてより押えていた代助への愛が押えきれなくなっている自分におののきを覚えていました。一方、家の繁栄のために、長井家とゆかりの深い財産家・佐川の令嬢との縁談を望む得と誠吾は、強引に代助に見合いをさせました。音楽会、食事会と次々に見合いの席を用意し、代助も、素直にそれに臨んみました。しかし、縁談が順調に進めば進むほど、代助の中で、ある一つの決意が固まっていたのです。「昔の自然に今、帰るのだ」・・・。

 三千代に自分の気持ちを打ち明ける決意をした代助は、思い出のある百合の花を飾り、三千代を家に呼び寄せました。代助の思いきった告白に、三千代は涙を流しました。なぜ、もっと早くに言ってくれなかったのかと。あなたは残酷な人だ、となじりながら、その中には喜びが含まれていました。「覚悟を決めます」という三千代を代助はみつめます
。しかし、この二人の決意は、二人の社会からの離反を意味していました。得の家に縁談をことわりに行った代助に、三千代とのことを平岡からの手紙で知った誠吾が罵声をあびせました。ついに、得は、代助に言い切りました。「出ていけ!」。今は無一文になった代助
は、それからを思い、ひたすら、歩き続けるのです。本当の意味のそれからはそこから始まったのです。でも膜は閉じます。漱石氏らしいエンディングだとは思いませんか?その後に2人は?その後の生活は?

 本当の意味での生活の苦しさを知らないお坊ちゃま育ちんの代助がどうやって三千代を養っていくのか、もう思いは遥か彼方、それからに通じているのです。そしてまた大学時代に、親友の妹であった三千代と結ばれていたら、三千代は平岡のような仕打ちをしないで済んだのだろうか・・・色々な思惑が頭をよぎりました。明治と言う時代に振り回され、行く末は見えているようで、薄いヴェールが覆った漱石の初期の三部作にふさわしい作品だとつくづく思い知らされた気がします。『明暗』を読んだきりにしてしまっていた私は、明暗のラストもこのように読者に考えさせる終わり方をしたのだろうかと考えてしまいます。また、『こころ」を読んだ時のセンセーショナルな最後もふと思い出していました。

今また歳を重ねて読むと違ったものが沢山見えてくるのだろうと想い至りました。

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コメント

こんばんわ。
今日も降らずでした。

「それから」なつかしいですね。高等遊民、あこがれたものです(^_^;)
自然主義の私小説家からはだいぶ非難されたようですが、おもしろかった記憶があります。
細部は例により忘れていましたがとこさんの記事で思い出しています。
ちょっと確かにいい気なものだとは思いましたね。
映画は見ていないのですが原作にかなり忠実のようですね。
松田優作は確かにあれっという気がわたしもしますが、結構よかったのでしょうね。
ほんとに二人の「それから」はどうなったんでしょうかね。

投稿: KOZOU | 2009年6月18日 (木) 18時14分

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