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2009年6月11日 (木)

私の好きな作品たち~見延典子編

 あまりご存知ない方も多いと思いますが、私と同郷北海道の作家さんです。桃井かおりさん主演の『もうほお杖はつかない』を書いた方なんです。最初、映画の紹介にしようと思っていたのですが、第27回新田次郎文学賞に、第一文学部卒業生である見延 典子さんの『頼山陽』が選ばれたので、これは書くしかないでしょうと思った次第です。やはり同郷というだけでも嬉しいのもですね。

 北海道札幌市生まれ。北海道札幌南高等学校時代に小説『指』Bobu002 で北海道新聞社主催・第11回有島青少年文芸賞において佳作に入りました。作家になれると確信し、早稲田大学第一文学部に入学。文芸科の卒業論文に200枚の小説『もう頬づえはつかない』を書いた。その後、担当の教員が雑誌早稲田文学に紹介し、掲載されました。のちに講談社から出版され、50万部を超える大ベストセラーになりました。本作は桃井かおり主演で映画化され、ヒットしましたね。観ていない方のためにおさらいしましょう。

 早大生のまり子(桃井かおり)は、アルバイト先で知り合った同じ大学の橋本(奥田瑛二)と、三十過ぎの芽の出ないルポライターの恒雄(森本レオ)という二人の男とつき合っていました。まり子は現在橋本と同棲中で、その前は、恒雄と恋愛関係にあり、彼のために薬剤師になる夢を捨て大学も変えたことがありました。彼女は恒雄のことで札幌の母と喧嘩して、以来、仕送りもなく、今は大家の中年男高見沢の妻・幸江の経営する美容院でバイト中。ある日、橋本と同じアパートにいる明美という女から、二人が以前、関係していたことをまり子は聞きました。そんなとき、突然恒雄が戻ってきたのです。彼は故郷で働といいます。そして、まり子と橋本の関係を知って怒る恒雄に、彼女は抱きついていく。その現場を見た橋本は恒雄と争いになり、まり子の前から去っていく・・・暫くして、橋本は故郷鹿児島で就職を決めてまり子の前に現われます。
 その頃、あの橋本と争った日以来、行方をくらましていた恒雄も戻ってきて、まり子は雄と久しぶりのセックスをするが、以前のような気持にはなれなませんでいた。それは、恒雄が自分の夢を追うばかりで、彼女の立場を考えようとしないからです。一方、橋本もまり子を連れて故郷に帰りたいと言います。自分のことしか考えない二人の男に、まり子はひとりで生きていく決心をするのでした。ひとりで生きていく・・・そこには、底はかとない心と身体の痛みがありました。恒雄の子を身ごもり、堕胎する決心、女にとってそれがどれほど苦痛か、耐え難いことか私は観ていてついのめり込んでいました。そして、病院から帰ってたまり子は冷蔵庫の前に座り込み、殆ど空の中から」り出し、むしゃむしゃ食べ始めるのです。妊娠中はつわりで何も食べられなかったというのに・・・

 大学に入って自由を得て少し背伸びして頬杖なんかついているとこの映画のような結末が待っていたりするものです。人事とは思えない映画に意気消沈している私がいました。

その後、見延さんは結婚し、広島へ行ってしまいましたが、次々と女性ならではの視点で作家活動を続けていたのですね。

 『愛の炎』は、夫・猛の彫刻家として再出発を図りたいという意思を汲んで、天女村に移住することを決めた妻のよう子と息子の連。猛のスランプ脱出をGanntona04 願いながらよう子自身も風光明媚な村で過ごすうちに焼物を再開させることとなります。しかし猛はスランプを抜け出せず、たまたま応募した作品が入賞したよう子のことを同じ芸術家として激しく嫉妬することに・・・その一方で連を通じて知り合った農業主の次郎とよう子が村人たちの噂となります。破局へ向かう結婚生活と新たに強まる愛と生命の絆を描いた作品です。
 昼メロドラマチックなノリの大人のラブストーリーです。この作品の展開で深く絡んでくるのがずばりお金。交通事故の賠償問題、夫が失踪した後に逼迫していく生活、逢瀬のときに相手にかける負担などそのたびごとによ子に起こる感情の揺れ動きがお金のやりとりで如実にあらわれてきます。そして後半部分になると”300万円”という金額が次郎とよう子にれぞれ違う意味をもたらすようになります。お金で買われた愛は少々生臭いけれども、お金を介在しての感情の動きはリアルさがあって訴えかけてくるものを増すような感覚があります。よう子が次郎から金銭的な援助をうけないと決意するのも「恋人であって愛人ではないんだ」という気持ちの現れのような感じがします。なんだかそんなところが大人のラブストーリーを匂わせます。たまには読書で昼メロしてみるのもいいんじゃないでしょうか。

 『三人姉妹』では、夫の浮気にこらえきれなくなって広島の実家に戻った長女・葵、パトロンがいなければ成り立たない画家という職業に嫌気がさしている東京に住む次女・ネム、子供が出来たせいで教師という夢をあきらめて札幌へと渡った三女・あんず。30代を迎えた朝比奈家の三姉妹が母の死をきっかけにして女性として再びよみがえっていく姿を描いた作品です。女系で続いているからなのか女性によって支えられてきたのが朝比奈家。幼い頃に父親を亡くし祖母と母の頑張りによって育った葵、ネム、あんず、大樹は常に朝比奈家の女性の力を感じているようです。本来跡取りとなるはずの長男の大樹はそんな様子に安心感を抱いているのかコックになる夢に向かって前進中。そして結婚しても遠く離れても朝比奈家のことを常に気にかけていた三姉妹もまた朝比奈家の呪縛から逃れて母親として女性として自由に生きていこうとしはじめます。そのきっかけとなっているのは年下の男性との旅行中に起こった母親の事故死です。朝比奈家を守るためだけに生きているとばかり思っていたはずの母親が女性としての顔を捨てずにいたことが三姉妹にとっては大きな衝撃だったのでしょう。母親の死や人生をそれぞれの胸で謎解きしていきます。そうしてそれぞれの答えをもって新しい出発をしていく姿に名前のとおりの花のように美しさや凛々しさを感じられます。三人それぞれに違う個性が顕著なので読んでいて飽きることがありませんでした。

 『聖なる河』は、義父と2人の異父弟、そして唯一血のつながっGantona01 ている母という家庭の中にぬぐいきれない違和感を感じて育ったのが主人公の今日子。義務のように通っているなんとなく高校で盛り上がった嘘か本当かわからないマチ子の恋物語。彼氏を紹介してくれるというので友人達と興味半分に訪れた結果、今日子はマチ子の彼氏のサトルと肉体関係を結ぶようになります。そのことがきっかけになって堕ちていく今日子の人生を描いた作品です。義父と異父弟に囲まれた生活は不自由したものではなかったけれど、なぜか居場所をつかむことが出来なかったことが今日子が堕ちていく根本的な理由のようにみえます。安らぎの場所や自分にだけ注がれる絶対的な愛情を今日子は求めていたんだろうなぁと。そんな安住の地をサトルの腕の中に見つけ、高校を中退して一人暮らしを始めることになります。でもやっと安心できると思った場所はサトルの裏切りによってガラガラと崩れていきます。里美の相談にのったりできる今日子は高校生としては大人びて
いたけれども社会的にはまだまだ未熟だったということを突きつけられているのに今日子はそのことに気づくことはありません。そんなところにもまた未熟さを感じてしまいます。せめて高校を卒業して自分で生活ができるようになっていれば、1人で生きていけるしたたかさを蓄えられていたんじゃないでしょうか。主人公をラストまでとことんまで落とし続ける作品は本当に暗いものです。男と女のあり方を問う作品だと私は思いました。

そして『頼山陽』。 『日本外史』の作者としてあまりにも著名であり、かつ江戸時代きっての文人であった頼山陽の生涯を描いた長編小説です。広島在住の作者が地元中国新聞に長期にわたって好評連載した同名の小説に大幅に加筆して刊行されたもので、上下巻で900ページ、恐らく原稿用紙で2700枚以上にのぼるであろう大作です。
 頼山陽の著作は、漢文で書かれているために、現代の我々には大変馴染み難く、私も実際の作品はほとんど読んだことがありません。しかし、20年以上前に刊行された中村真一郎氏の『頼山陽とその時代』で、このある意味では同時代人にとっても型破りであったろう、スケールの大きな巨人の一部を垣間見た思いでした(これは、中村氏の著作のことを言っているのではなく、当時の自分の理解の程度を指してます)。だから、この長編小説で久しぶりに頼山陽の姿に再会した訳ですが、冒頭21歳の山陽が狂気にとりつかれたように脱藩して京へ上り、連れ戻された幽閉・廃嫡となる第一部の立志編から作者の入念・細緻な筆に引き込まれて、ほとんど滞りなく一気に読むことが出来ました。

「わしは三都のいずれかに出て、文で名をあげる」と大言壮語して、儒者の一家である頼家の人々を困らせる山陽は、しかしまた余人に無い強烈な意思とエネルギーで自己実現しようと放蕩と放浪を繰り返します。
 下女であった梨影を妻としながらも、妻女江馬細香との不思議ともいえる師弟愛を続ける山陽は、徐々に京において詩書画において名を
上げつつ、多くの文人との交流を広げてゆく。そして、働き者の妻梨影のお蔭もあって生活が安定してゆくにしたがい、山陽は永年書き続けた『日本外史』をようやく完成することができ、それによって一気に名声が上がるのです。
 『日本外史』は、尊王論を柱にした源平以降の武士の歴史ですが、漢文による壮大な日本史を在野において完成させた山陽の仕事は、当時にあっては偉業とも言えるものであったろうことはこの小説に描かれた各藩の反響からもよく分かります。また、幕末の尊王論への影響が大きかったことは紛れもない史実です。でも、この小説に描かれる山陽は、同時に書画骨董などに旺盛な物欲つまり蒐集癖があり、一度狙った書画は絶対手に入れるように執念を燃やすなど、周囲にとっては迷惑な人間だったようにも見えますが、それを補ってあまりあるほど友情に篤く、また周囲もほっておけないTkamio001 魅力ある文人だったように思います。さらにはこの親あってこの子あり、山陽の母静(梅?)の山陽に対する愛情の深さ、そしてそれにこたえるような山陽の親孝行は大変微笑ましかったです。
また、当時山陽ほど家の束縛を嫌い、自由気ままに自分の目標に向って進んだ自由人も珍しいですが、人間として成長するにしたがい、自分がいかに父や叔父たち、そして母や友人たちに支えられていたかに気がついて、それに感謝するとともに「人が人として自由かつ幸福に生きられる世であってほしいと切なる願望」をもって、多くの著作を書いてきたという作者の山陽像は、十分共感できるものです。

 それにしても、江戸時代詩書画ともこれだけ盛んだった漢文の文化は、現代ではほとんど忘れさられているのは、明治の急激な西洋文明の導入と、太平洋戦争敗戦による第二の開国のためなのでしょうか・・・

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コメント

the internet. You actually know how to bring a problem to light

投稿: eebest8 Amen | 2015年3月26日 (木) 15時38分

こんばんわ!

足ともの件でとこさんに連絡しようとしていたら・・・KOZOUさんの詳細な説明で先を越されました(笑)今さっき足ともサイトで、「足とも申請」しようとしたらできなかったもので・・・(^^;)

足とも申請したいので、よろしくお願いしまっす★

投稿: yukidaruma | 2009年6月11日 (木) 19時53分

こんばんわ(*^_^*)
メールは万一ということがあり、ちょっと長くなりますが全文をここにコピーいたします。よろしくお願いします。


こんばんわ。
やはりあとのメールアドレスが正解だったんですね。
でもとても嬉しいです(*^_^*)
届いていることがわかり。
よろしくお願いします。

1 あし@のこと

 便利です。ぜひ設置されることをおすすめします。
 とこさんの「ぐって」ありがとうございました。こんなふうにいろんな方からのアクセスもあり、きっと
 とこさんのお仲間も増えると思います。順をおって書きます。
 ①まずあし@にログインします。メールアドレスとパスワードを使ってください。
 ②ログインした場面で左下に「各ブログでの設置のしかた」とあると思います。それをクリックしてください。
 ③クリックした場面に「対応ブログ」とあると思います。その2行目6段目に「ココログ」があります。それをクリックしてください。
 ④とこさんはココログですので設置は非常に簡単です。クリックしたら「ココログに設置」とあると思います。それをクリックしてください。
 ⑤クリックしたらココログへのログイン画面になりますのでココログにログインしてください。
 ⑥クリックしたら「ブログパーツをサイドバーに設置」と書いた画面になると思います。そこで「ぶんげいたんさく」にチェックマークを入れ
  下の「ブログパーツを追加」をクリックしてください。これで終わりです。クリックしたら左に「完了です!」と出ていると思います。
 ⑦これでとこさんのサイトの左上にあしあとマークが出ていろんなことができます。

   ※ もし不明の時はメールかコメントかBBSか何でもいいですのでおたずねください。
      完了したらわたしの方から「あしとも」申請をし、お気に入りに入れさせていただきます。
yukidarumaさんやmarunagaさんも会員ですので喜ぶと思います。
      ほんとにこれは便利ですよ(*^_^*)

2 小説のこと
 
   ありがとうございます。これは前に書いたと思いますが、だいぶ前に書きためたもので見直しが
   必要と思っています。見直して順次ブログにもアップしていきたいと思っていますので、その時で
   結構ですのでコメントよろしくお願いします。
  ①KOZOUの小説をクリックしますと「ようこそKOZOUの電子本へ」に行きますね。
  ②本来専用のリーダーで読むようにしたものですがPDFファイルというそのまま読めるものもあります。
  ③PDF版は左の「KOZOUの電子本PDF版」をクリックしてください。
  ④そうするとインターネットディスク場面に行き、小説のタイトルがローマ字であります。
  ⑤読みたいタイトルを右クリックします。そしたら「対象をファイルに保存」が出ますから、好きなところ、マイドキュメントかなにかに
   ダウンロードしてください。ダウンロードしたのをクリックすれば読めます。

    ※ これももし何かあればお尋ねください。

  成功を祈っております。(*^_^*)

       KOZOU

投稿: KOZOU | 2009年6月11日 (木) 19時46分

とこさん、こんばんわ(*^_^*)

今あし@と小説の読み方について詳しく書いてメールしました。
メールをご覧になってください・
もし不明なところがあればまた、メールでもコメントでも、BBSでも何でも結構ですのでお尋ねください。

あし@はとても便利です。ぜひ設定されることをおすすめします(*^_^*)

投稿: KOZOU | 2009年6月11日 (木) 19時23分

おはようございます。
こちら雨もあがっていい季候です。

いつもコメント大変ありがとうございます。
レスを書いておりますのでいつかご覧になってください。
ネクラ路線もちょっと修正しようかと思っております(^_^;)

「もうほお杖はつかない」、評判になったですね。桃井かおりのファンだったもので映画も見ました。当時の風俗をよく表し主人公の心の揺れは男にも共感できました。揺らしたのは男であり、男はいつの世もあまり変わらないのですかね(^_^;)
他の作品は知りませんでした。
いつもながらとこさんの多読に驚きます。
やはり女性の視点がよく出た作品のようですね。
頼山陽まで書かれているとは驚きました。
勉強家でもあるのですね。
漢文は断定的であまり迷いを知らないようですね。
時々読むと気持ちが締まります。
漢文で育った日本人は明らかに現代文で育った日本人と違ってくるのでしょうね。
やはり人生が芸術を模倣する一面なのでしょうね。
頼山陽、相当魅力的な人物のようですね。
また色々勉強になりました。ありがとうございました。

投稿: KOZOU | 2009年6月11日 (木) 09時24分

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