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2009年6月28日 (日)

私の好きな作品立たち~カズオ・イシグロ編

 特に好きな作品を選べといわれると、やはり『日の名残り』でしょうか。1993年に英米合作で映画化され、ジェームズ・アイヴォリー監督・アンソニー・ホプキンス主演『日の名残り』として公開されましたね。

 第二次世界大戦が終わって数年が経った「現在」、執事スティーブンスは新しい主人ファラディ氏の勧めでイギリス西岸のクリーヴトンへと小旅行に出かけます。前の主人ダーリントン卿の死後、親族の誰も彼の屋敷ダーリントンホールを受け継ごうとしなかったのをアメリカ人の富豪ファラディ氏が買い取ったのですが、ダーリントンホールでは深刻なスタッフ不足を抱えていました。ダーリントン卿亡き後、屋敷がファラディ氏に売り渡される際に熟練のスタッフたちが辞めていったためでした。人手不足に悩むス Annri006 ティーブンスのもとに、

 かつてダーリントンホールでともに働いていたベン夫人から手紙が届きます。ベン夫人からの手紙には現在の悩みとともに、昔を懐かしむ言葉が書かれていました。ベン夫人に職場復帰してもらうことができれば、人手不足が解決すると考えたスティーブンスは、彼女に会うために、ファラディ氏の勧めに従い、旅に出ることを思い立つ。しかしながら彼にはもうひとつ解決せねばなない問題がありました。彼のもうひとつの問題、それは彼女がベン夫人ではなく旧姓のケントンと呼ばれていた時代からのものだった。旅の道すがら、スティーブンスはダーリントン卿がまだ健在で、ミス・ケントンとともに屋敷を切り盛りしていた時代を思い出します。

 今は過去となってしまった時代、スティーブンスが心から敬愛する主人・ダーリントン卿は、ヨーロッパが再び第一次世界大戦のような惨禍を見ることがないように、戦後ヴェルサイユ条約の過酷な条件で経済的に混乱したドイツを救おうと、ドイツ政府とフランス政府・イギリス政府を宥和させるべく奔走していました。やがて、ダーリントンホールでは秘密裡に国際的な会合が繰り返されるようになりますが、次第にダーリントン卿はナチス・ドイツによる対イギリス工作に巻き込まれていくのでした・・・

再び1956年。ベン夫人と再会を済ませたスティーブンスは、不遇のうちに世を去ったかつての主人や失われつつある伝統に思いを馳せ涙を流すが、やがて前向きに現在の主人に仕えるべく決意を新たにします。屋敷へ戻ったら手始めに、アメリカ人であるファラディ氏を笑わせるようなジョークを練習しよう、と・・・

 事からイメージされるのは、推理小説の登場人物くらいで、あまり現実感がないので、イギリスのお屋敷の一流の執事たるものは、どうあるべきかという読み物として読んでしまうと単なるボヤキ、あるいは「執事の品格」になってしまいます。

時代背景が、第一次世界大戦と第二次大戦の挟間で世界が大きく動く歴史をふまえて読むと、もう少し、理解ができるものと思います。 ダーリントン卿にお仕えした執事の仕事の達成感と寂しさ、ダーリントン卿が失脚して、新しくアメリカから来たファラディ様に仕え、イギリス流とは違ったジョークを勉強しなければならない苦痛感・・・

執事のスティーブンが、ファラディ様の好意で休暇を取り、フォードを借りて、かつて一緒に働いた女中頭ミス・ケントン(ミセス・ベン)からもらった手紙を頼りに、彼女に会いに行く物語。スティーブンの執事としての人生・スティーブンとケントンの恋物語・ダーリントン卿の衰退とイギリスの衰退という時代背景がうまく溶け込んでいます。
 執事が物語を淡々と語るので、物語に引きこまれていきます。 こうした静かなイギリス的なものを読むのもいいのかもしれません。

 その時だったと存じます。男がこう言ったのは――「人生、楽しまなくっちゃ。夕方がいちばんいい。私はそう思う。みんなにも尋ねてごらんよ。夕方が一番いい時間だって言うよ」 「たしかにおっしゃるとおりかもしれません」と私は言いました。
 私はここに残り、今の瞬間を――桟橋のあかりが点燈するのを――待っておりました。先ほども申し上げましたが、楽しみを求めてこの桟橋に集まってきた人々が、点燈の瞬間に大きな歓声をあげました。その様子を見ておりますと、あの男の言葉の正しさが実感されます。
 たしかに、多くの人々にとりまして、夕方は一日でいちばん楽しめる時間なのかもしれません。では、後ろを振り向いてばかりいるのをやめ、もっと前向きになって、残された時間を最大限楽しめという男の忠告にも、同様の真実が含まれているのでしょうか。(本文から)

 『浮世の画家』で超一流の絵師だったはずの主人公を描いたイシグロさん。物語はその彼が抱く「悔恨」の念を軸に紡がれて行きます。まるでメトロノームでテンポを測りながら書いたように、冷静で崩れることのない文章。戦後の日本をここまで微細に英語で描き上げた作品があったことに驚かされました。一方で、イシグロ・ワールドがこの作品で一つのスタイルを確立したことが読み取れます。ここを起点にして、The Remains of the Day や The Unconsoled や When We Were Orphans が造り出されて行ったたのだな、というのがよく解りま
す。後の作品に較べると少し小ぶりなところはありますが、何かのエキスパートである主人公が心の中にある小さな塊に胸を痛めることでストーリーが展開して行きながら、背景に時代、社会、民族といった問題が大写しに現れ出でる、という構図はこの作品でも見事です。

ミュージシャンになりたかったイシグロさんが、ひょんなことから作家になって、最初に書いた二つの作品が日本を舞台ものにていた、ということに大きな親近感を抱いた私でした。

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コメント

とこさん、いつもコメントありがとうございます。
レスを書いていますのでよかったらいつか見てください。

投稿: KOZOU | 2009年7月 2日 (木) 21時05分

初めまして、GOGOマサと言います さて、何をどのように助けてあげれば宜しいのですか? まだ私は、内容がわかりません それからもし、1から10までを、教えてというのであれば、スカイプが便利ですよ・・・くわしくは、http://ma1965sa4011.blog22.fc2.com/
私の、ブログから ダウンロードできます スカイプの紹介の記事があります すべて無料です。
おはなしする時に使うヘッドセットが680円~780円
かかるぐらいです 電気屋さんに行けば購入できます 宜しければお願いします。またわからない事があればコメントくださいね

投稿: GOGOマサ | 2009年7月 1日 (水) 07時17分

とこさん、いつもコメントありがとうございます。

そうですか。
最近記事を書かれていたので、元気になられたのかなと思っていました。
大変失礼しました。
ほんとにどうかゆとりのあるときに。
そしてブログどうかやめないでください。
ほんとにお友達も増えているし、わたしももちろん皆さん寂しいです(*^_^*)

投稿: KOZOU | 2009年6月30日 (火) 00時23分

おはようございます。
いえいえ
ほぼ毎日このボリュームのUP
には頭が下がります。

あたらしいお仕事無理せずに、
こればっかりは、出会いの神様が
お決めになられることだとおもっています。

当方も世界不況の中
4月から早期退職58歳ハローワーク
に毎週・・・
でも今が一番幸せだと思っています。
専業主夫で好きなこと
好きな時間
好きなところへ
動ける自由なんて
これ以上のものはないと
思っています。

投稿: 茶々 | 2009年6月29日 (月) 07時33分

こんにちわ(*^_^*)
今日も暑くなりそうです。

カズオ・イシグロ、名前くらいしか知らなかったですね。
「日の残り」、いいタイトルですね。
イギリスの執事、いかにもイメージが浮かびますね。
淡々としながらスケールも大きいようですね。
ジョークとイギリス流ユーモアは違うのでしょうね。

いいお休みをです。

投稿: KOZOU | 2009年6月28日 (日) 10時52分

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