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2009年7月 9日 (木)

私の好きな演出家~久世光彦編

Gadenn  私が久世さんの名をおぼえたのは、紛れもなく向田作品をテレビで観ていた時でした。演出家、プロデューサーとして「寺内貫太郎一家」、「時間ですよ」などテレビ史に残る数多くのテレビドラマを製作しました。女性問題が週刊誌で騒がれ1979年に独立、1980年にカノックスを設立。1987年に出版された処女作『昭和幻燈館』を皮切りに、作家活動を本格的に開始。小説・評論・エッセイなど幅広く執筆活動を行いました。50歳を過ぎてのスタートにもかかわらずその活躍は目覚しく、独自の耽美的な作風を確立して多くの文学賞を受賞。他にドラマ作成の現場の戦友であった向田邦子さんを巡るエッセーが人気を博しました。

 2006年3月2日、虚血性心不全のため都内の自宅で死去。生 前はどんな病気でも入院することを嫌っていたそうです。軽い糖尿病を患っていた他、数年前には副交感神経関係の手術を受け、脳梗塞からの回復の途上でもありましたが、死の直前まで仕事を抱えており、多くの関係者を驚かせた急逝でした。

私にとってもとても悲しい出来事でした。向田さんの作品を誰よりも愛し、理解していた方だと思います。

 『向田邦子 久世光彦 終戦記念BOX』は特に好まれている作品群で、終戦60周年を記念し向田邦子原作、久世光彦氏がディレクターを務めた「終戦記念」TVドラマ5作品をBOX化です。戦時中の母親と娘の生きる姿を描いています。『いつか見た青い空』『言うなかれ、君よ別れを』『蛍の宿』『昭和のいのち』『あさき夢みし』を収録しています。これだけでも久世さんの才能があふれんばかりに触れることができます。

 久世さんが手がけられたこのドラマシリーズでは、戦争はあくまで背景として描かれていて、ここでも主役は「家族の日常」です。戦時下でも変わらない心のふれあいと微妙なずれが、久世さん独特の美意識によって色彩豊かに描かれています。

 このシリーズで一番印象に残っているのは、「蛍の宿」のラストシHosino001 ーンです。 戦争が終わった日の午後、まばゆいばかりに輝く海に向かって末娘役の田畑智子さんが砂浜を駆けて行くシーンは鮮烈でした。

「いつか見た青い空」のラストのナレーションも感動的でした ・・・・・あの日の空は青かったと誰もが言います。何かが終わったのか、それともこれからはじまるのか、私にはよくわかりませんでした。私たちは四人で青い空を見ていました。いつまでも、いつまでも・・・
ナレーターの黒柳徹子さんは読みながら声をつまらせ、涙を流されたそうです。

 戦争を体験された世代としては、久世さんの世代が最後になるのでしょう。戦時下の人々の暮らしを身近な日常として描くことは、後の世代の作家には出来ないことです。そういう意味でも、この作品が素敵な装丁のDVDとして残されることを嬉しく思います。
 あらためて、久世光彦さんのご冥福をお祈りします。

 向田邦子原作、久世光彦がディレクターを務めた名作TVドラマシリーズの平成9年から13年までの作品をBOX化では母と3人の娘が暮らす一家と落語家の触れ合いを綴る『空の羊』ほか、『終わりのない童話』『小鳥のくる日』『あ・うん』『風立ちぬ』を収録されています。
毎年お正月を少し過ぎたころに放送されていた、久世光彦演出の向田作品。毎回、話の構成は大体同じなのですが、つい見入ってしま作品の魅力。その理由としては、向田作品の持つ「力」でしょう。一見すると、堅実で、礼儀正しく、朗らかな「完璧」な家庭。しかしながら一人ひとりの人間には何かわだかまりやら秘密があって、ふとしたときにそれが露呈される。家庭の持つ「陰」の部分が非常に旨く描き出されているからこそ、この作品は時代を超えて共感されるのではないでしょうか。

 そして忘れてはならないのは、この作品を演じる役者たち、加藤治子さん、小林薫さん、田中祐子さん。ちょっとしたしぐさにもその時々の心情が表現されており、かつそれが自然なだけに引き込まれてしまいます。このような豪華な定番キャストに挑戦する「旬」の俳優たちも、普段とは異なった一面を見せていて、この点もこの作品群の大きな魅力となっているように思われます。

 また、TVの演出やプロデューサーで名を馳せた久世さんが、小説家として一躍メジャーにのし上がった作品が『一九三四年冬―乱歩』でした。この作品で1994年の第7回山本周五郎賞を受賞。その年の第111回直木賞にもノミネートされるも、非常に高い評価と「もはや直木賞のカテゴリーを越えている」等の否定的な意見と賛否両論となり、受賞には至りませんでした(その時の直木賞受賞作の一つは同じく山本賞にノミネートされながらも久世氏の前に落選した海老沢泰久の『帰郷』でした)。

1934年、乱歩は新聞に連載していた小説「悪霊」を突然自分の都合で打ち切るというGadenn007醜態を世間に晒し、数ヶ月間姿を隠していた。打ち切りの理由は「構想の未熟」であったと言う(乱歩の構想は「アクロイド」だったらしい)。本作はその空白の期間を作者があり余る想像力で補い、乱歩のそして時代の様子を描いたもの。乱歩に対する作者の愛情がヒシヒシと伝わります。 乱歩は友人に紹介されたホテルに泊まり新作を書こうとする。ところが、このホテルが怪しいのだ。ホテルの雰囲気自身が怪しいし、美青年のボーイ、謎の麗人、その他の怪しい宿泊客等、いかにも乱歩好みの状況。この状況に押されように、乱歩は新作(勿論作者の作中作)を書き始める。その名は「梔子姫」。
 物語は、乱歩が数々の謎に満ちた出来事に刺激を受けながら、この「梔子姫」を書き上げるまでを描いています。

この作中作は素晴らしい出来で、エロティシズムに溢れた怪異譚の傑作。乱歩自身の作品に優るとも劣らない幻想的作品です。そして、最後に仕掛けが用意してある全体の構想も見事の一言に尽きます。
 戦前の東京の様子・雰囲気も見事に描かれ、作者の研究ぶりが窺がえます。乱歩への愛情が産んだ乱歩ファンへの最高のプレゼントであり、構成も確かな耽美小説の傑作といえるのでしょう。このような作品を読みながら久世さんを偲ぶのも、ファンである私達のできることではないでしょうか。 もう少し詳細を調べて久世さんの足跡を辿ってみたいと思うのでした。

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コメント

こんばんわ。
今日も暑かったです。

わたし脚本家はあまり意識しない方ですがさすがこの人は知っているし作品もだいぶ見ているようです。
「寺内貫太郎一家」、「時間ですよ」当時評判になりましたね。とてもおおしろかったことを覚えています。
「終戦記念BOX」もいくつか見ています。書かれていますように戦争体験世代としては最後なのでしょうね。
わたしは体験世代ではありませんが、やはりすごく戦争テーマはひかれますね。
究極の人間ドラマ、生きるか死ぬかですからね。
あうん、はぽろぽろ泣きながら見ました。向田作品ですけれど。
それにしても、小説でも大きな賞、やっぱすごいですね。
やっぱ基本は才能でしょうね(^_^;)

とこさん、いつもコメントありがとうございます。
レスを書いていますのでご覧になってください。
あし@の足跡はついていますよ(*^_^*)

投稿: KOZOU | 2009年7月10日 (金) 01時11分

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