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2009年7月17日 (金)

私の気になる作品たち~西川 美和編

 今回、『きのうの神さま』で直木賞好捕となった西川さん。『ゆれる』で世界的な評価を獲得し、今、最も注目を集める映画監督が、日常に潜む人間の本性を渾身の筆致で炙りだした短編集です。『ディア・ドクター』に寄り添うアナザーストーリーズです。 もともと脚本家であった西川さんが見たものとはなんだったのでしょう。

 前回の「ゆれる」は映画はもちろん、小説も大変良かったので、2作目となる新作小説も、早々と読んでみました。

あとがきによると・・・。
僻地の医療を題材とした映画を作りたいということで、取材を始 めたということです。すると編集者の方に、取材の支援をするので同じような題材で小説を書いてみませんか・・・という誘いがあったそうです。それで今回の小説に至ったとか。取材は映画の脚本の素材にもなったけれど、映画の時間軸で語りきれなかった数々のエピソードや人々の生き方をこの本で甦らせたということでした。

 小説は、5つの短編から構成されています。関連性はあまりなGohho39 いのですが、どのお話も丁寧な心理描写と舞台になる町の情景が美しいです。前回の映像でも感じられたのですが、文章でも随所に人物描写の鋭さがみられる作品でした。人間、負の感情も色々と持ち合わせているわけですよね。どの章の主人公も、出来事に直面するたびに色々なことを考え、思ったりしているわけです。それが実に人間くさく、面白かったです。
 また、表紙の写真も素敵です。これは逆向きなのでしょうか。表紙をめくると、同じような写真が白黒であります。これは表紙とは逆の写真。なんとも不思議な構成です。

「1983年のほたる」
主人公は小学生の私。田舎の村に住んでいます。自分は人とは違うと思っているがよくわからない。最近、受験のために遠くの塾にバスで行きだしました。村の中では一番だと思っていても外に出れば私なんてそんなに特別でもありません。友だちも村のことも、色々考えます。そんな私が帰るのは最終便のバス。あるとき、そのバスの運転席、一之瀬時男という人に名前で声かけられます。私は彼が苦手でした。

「ありの行列」
主人公は若い医師の男。とある離島にある診療所の代診となった彼。そこにいる老医師の診察に付き合い小さな島の医療の現状を知る。

「ノミの愛情」
主人公は私。もと看護師。夫は市民病院に勤める小児心臓外科医。非の打ちどころのない医師だが、私にはいろいろと不満がある。

「ディア・ドクター」
父が倒れた。父は大学病院の外科医だった。入院した病院にあの人=兄は来るのだろか。兄のことを思い出す私。

「満月の代弁者」

男は今日での僻地の医療現場を離れる。彼の変わりに年配の新任医師はすでにやってきている。引継ぎをするために一緒に、患者のもとを訪ねる男。男は色々なことを新任医師に語る。

「ディア・ドクター」での兄弟と父親の関係。「ノミの愛情」での妻と夫の関係が面白かったです。

以下・・「ノミの愛情」の本文から

私の未知数はあの夫に全てやってしまった。あの虚勢と誇りとを混同し続ける夫の、高潔な生業と、品行方正な人間性とを、守るため、それが世界のため。
けれど未知数を放棄した代わりに、そんな完全無欠の男が家族に見せるだけのほころびを、かつて私は確かに、舌の先でなめて喜んでいたではないか。
小さな秘密の急所に歯をあてて、大きな大きな象の背中に乗っているノミのような
気分だったではないか。

これは、家庭に入った主婦の立場からみればわかると言う思いと同時に、女性の恐さも感じるお話です。らせん階段をどんな思いで、磨くのか想像すると恐いです。冒頭で、お隣でかっているレトリバーの犬、トーマス君が登場し、彼(犬)の人生と自分を重ね合わせているところも、面白いです。

 映画監督西川美和の新作「ディア・ドクター」は、心優しさとさほんわかとしたユーモアにくるまれながらも実に奥が深い、色々と考えさせられる映画でした。文句なく今年のベスト1を狙える傑作ですが、まずは映画を観てから、と封印していた直木賞候補の原作も早速購入。作家としても大変な才気を感じさせる彼女の待望の新刊です。映画の余韻も冷めやらぬ中読み切りました。

 少女期における微熱的な心の揺らめきと得体の知れない嫌悪感、無医村での代診医が遭遇する老人の町の孤独、思慕する偉大な父親への深い愛情に囚われもがく男。ちょっとした行間から醸し出される感情の綾。 何気ない日常の隙間から漏れ出してくる深層心理。
 彼女らしい人間凝視と洞察力の見事さは相変わらずです。 彼女自身があとがきで触れているように、本書は飽くまでも、本編の脚本、プロット構築のプロセスから企画、生まれた映画の内容とは別の創作。ただ、伊能治、大竹朱美、鳥飼りつ子と言った映画でのキャラクターは登場し、彼らの後日談ならぬ過去が語られます。
そして、映画では殆ど触れられる事がなかった伊能と年老いた父との関係、彼が肌身離さなかった父のネーム付ペンライトへの想いに、新たな切なさがこみあげてきます映画を観て感動した方は押さえておいていい作品だし、本書をまず読んだ方は、是非映画本編をご覧になる事をお薦めしたいですね。

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コメント

おはようございます。
こちら朝から蝉がうるさ~~~いです。

さすがですね。
ほんとに敬服です。まだまだ取れたての直木賞をさっそく。
わたし西川美和さん、全然知りませんでした(^_^;)
向田さんと言い脚本家はもちろん物語の盛り上げ方も、落としどころも、会話もすべてよく心得ているのでしょうね。
本文が書いてありますがこれを見てもさすがに切れのいい、鮮やかな文章ですね。
古い小説遺産のわたしの記事も考えないとです(^_^;)
ありがとうございました。

投稿: KOZOU | 2009年7月17日 (金) 07時56分

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