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2009年7月19日 (日)

私の好きな作品~北村薫編

  やりましたね、直木賞受賞、おめでとうございます。
『鷺と雪』は読もうかどうか迷った作品でした。北村さんはベテランの域に達しており、山本周五郎賞選考委員を務めるベテラン作家だったこともあり、取ってしまえば当然といえば当然なんですよね。でも『鷺と雪』はやはりよかったです。

 北村さんは埼玉県生まれ。早大卒業後、高校教師の傍ら、ミステリーの評論、編集に携わり89年、「空飛ぶ馬」で作家デビュー。91年「夜の蝉」で日本推理作家協会賞、2006年「ニッポン硬貨の謎」で本格ミステリ大賞。96年以来、6度目の候補で直木賞を射止めました。

 受賞作は、上流階級のお嬢様とハイカラな女性運転手の周りKaii5 に巻き起こる事件と不気味な騒乱の予感を、昭和前期のモダンな世相を背景に描き出す作品集です。選考委員の浅田次郎さんは「難しい時代を勇気をもって描き、人物も生き生きしている。余分な表現のない短い文章で読者の想像力を喚起させるうまさを感じた」と評価しました。

 『街の灯 (本格ミステリ・マスターズ)』『玻璃の天』に続く、花村英子とそのおかかえ運転手・ベッキーさんが主人公のミステリー・シリーズ第三弾。本書所収の3短編は、それぞれ昭和9年から11年にわたる3年の物語です。

 最初の『不在の父』はある華族の男が失踪し、今はルンペンとして暮らしているらしいという不思議な物語です。それは事実なのか、そしてそれはなぜなのか…。

 『獅子と地下鉄』が描くのは東京三越本店近くの和菓子店の少年が夜中に上野で補導されるという事件。少年はなぜひとりそんな行動をとったのか…。

 『鷺と雪』は英子の学友が銀座で撮った写真に、台湾にいるはずの許嫁(いいなずけ)が写っていたという怪異談。ドッペルゲンガーは果たしているのか…。

 こうした個々の短編は、日常に潜むささやかな、そして罪のない謎を扱った一話完結の物語です。しかし、北村氏がこのシリーズで真に描こうとするのは複数の短編を貫く、堅固で大きなストーリー・アーク(物語の弧)です。
 昭和の初期、巨大な時代の力がうねり、人々を飲み込もうとしています。押しとどめようもない波濤を前に、市井の人々は無力であるか、もしくは気がつかない。しかし一方で、この「鷺と雪」の登場人物である軍人たちのようにわずかですが、なんらかの挙に出ようと決意する者たちがいます。
 「真実とされていることも、時には簡単に覆る」(96頁)その時代にあって、それでもベッキーさんは「わたくしは、人間の善き知恵を信じます」(242頁)と語ります。彼女の孤高ともいえる姿勢に、心洗われる思いがします。

 北村さんはこのミステリー・シリーズで果たして昭和のどこまでを描くのか、そして物語の弧はどこまでつながるのか。楽しみであると同時に、昭和のたどった道を知る身にはつらく痛ましい物語が立ち現れてくるであろうことを感じて、心さびしい思いがするのもまた事実です。

  北村薫の作品はいつも楽しく、今回は昭和初期の設定なのに、登場人物には隣人のような親しみを感じました。また、元ネタとなっている事件の選択もいいですね。。大事件ではありませんが、非常に趣のある事件で、それを見つめていた人や時代がやさしく書いてあります。
『日常の謎』には殺人事件のような強烈な動機がないだけに、つい、ミステリーとしての完成度を求めてしまいます。完成度の高さに思わず唸ってしまう作品が多いだけに、『鷺と雪』にミステリーを求めすぎると期待がはずれてしまうかもしれ無いと思うのは考え過ぎでしょうか
・・・現代ではありえない浮世離れした、とよく評される北村薫さんの描く女性達。 芯が強くて、やや引っ込み思案で、「自尊心」があって、・・・とこれは私の感想ですが。英子嬢は、昭和初期の背景にはしっくりときます。学習院に通うお嬢様なのだから、やや浮世離れしているのが似つかわしいのです。
『鷺と雪』は、ほのかな恋心を頂いていた青年将校と、思わぬ遭遇。 時代という竜巻の気配。漠とした不安を感じずに入られません。

 この小説は三部作の最後となるシリーズで日本が大きく傾いていく前夜を女学生とそれを護る女性運転手という二人が事件(事件というほどに大変なものではないが)を解き明かしていく物語でです。

いささか時代背景もあり、華族の悩みみたいなものは理解しがたい部分はあるが、物語を通じて何か我々が最近どこかに忘れてきた大事なもの、それは家族を思うことや社会のあり方や、利己的ではない抑制の効いた人間関係などが、やはり大切なんだということを決して説教じみて語るのではないところがいいと思ってしまいました。

長いシリーズの後半部分なんでいよいよ最後のクライマックスがどこへたどり着くのかが、この本の一番最初のエピソードで分かってしまうのも仕方ないのでしょう。是非とも「街の灯」、「玻璃の天」とあわせて読んでいただくことをお勧めします。

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コメント

とこさん、こんばんは!!!
遅くなりましたがリンクよろしくお願い致します。
これからよろしくお願い致します。

北村薫さんは受賞ようやくですね。もっと適切な時期があったような気がしないでもないのですが。。。。

>>・・・現代ではありえない浮世離れした、とよく評される北村薫さんの描く女性達。
ハハハ、確かに。北村さんの描く女性は宮崎駿さんが描く女性像に似ている気がします。
 男性から見た理想の女性像なのかもしれません。

 最近の本はなかなか手に入れられないのですが頑張って手に入れてみたいです。

投稿: おりえ | 2009年7月23日 (木) 00時58分

おはようございます。
今朝も蝉の大合唱、でも短い命ですからね。
今新聞やめていてニュースはネットとテレビなのですが、芥川賞、直木賞決定のタイトルだけで中を見る勇気がなく(^_^;)恥ずかしながらまだ未練があるのですね。とこさんの記事で受賞作を知りました(^_^;)

北村さん、ほんとに遅きに失した感じですね。まだもらってなかったのかとわたしも思いました。
空飛ぶ馬や夜の蝉など初期の読みましたが最近のは読んでないですね。
とこさんの記事読んだら鷺と雪、とてもおもしろそうですね。この時代はドラマチックでとても興味あります。
この時代の雪とくれば2.26、気持ちが高ぶります(^_^;)
日常の謎はいいですね。
いかにも謎解きのためだけにどんどん人を殺していくミステリーはきらいですね。
彼もこれからますます活躍するのでしょうね。
読みたくなりました。

投稿: KOZOU | 2009年7月19日 (日) 07時15分

おはようございます。
へ~北村さんって
テレビで初めて知ったのですが、
若い作家かとおもったんですが、
ベテランの域に達してはるんですね。
そうですよね
何事も極めるためには
才能の熟成期間がいるんでしょうね。
ありがとうございました。

投稿: 茶々 | 2009年7月19日 (日) 06時54分

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