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2009年8月 8日 (土)

私が好きな作品~『私が語りはじめた彼は』

 三浦しをんさんの作品はまだ数冊しか読んでいないのですが、この作品は今まで読んだのとはまた違った赫々で読めたことが嬉しいです。

とにかく懐の多さに驚きますね。「風が強く吹いている」や「格闘する者に○」を書いた作家と、この「私が~」を書いた作家が同一人物だなんてにわかには信じられません。

文章力は有り余るほどに持っているでしょうし、文才がある人っていくらでも文体変えれるものなのですね。

でも、作風は違います。ここまで180度に色々な作品がそれぞれGadenn003 の作風を覗かせていると、本当に作者の脳内はどうなっているんだろう、って気分になります。このドロドロとした重苦しく陰気で、しかし熱い人間性を残した執着質で鬱陶しい登場人物たち…このぐるぐるとした後味の悪さ。何か禁忌の小説でも読んでしまったかのような感触。現代的な物語の切り口。たまらないです。

 桐野夏生さんや桜庭一樹さんを思い出させる…女流作家ならではの作品ではないでしょうか。男性ではここまで「オンナ」を書くことはできないんじゃないだろうかと今まで私がおもってきたことの逆を垣間見た気がします。美しく可憐な女を書く男性作家はたくさんいます、けれど粘着質でウザい女を書くことは女性作家にしかできないんでしょうね。それがいやだったはずなのに・・・。

 しをん先生にこんな懐があったなんてといっては失礼ですが、しかもこれ20代って・・・。解説でも金原さんが仰っていましたがが、なるほど鬼才です。

 先日、また、『大様のブランチ』を聞いていると(一応仕事をしていたもので、耳だけ音声をキャッチしてくれていて)、しをんさんがBOOKコーナーに出ていました。本当に本が好きで家中本だらけだそうです。それもジャンルを問わず、コミックでも本気で読んじゃうんだ
そうです。
 私は、『風が強く吹いている』で、惹かれたのですが、やはり、腐女子、三浦しをんらしい作品が読みたいですね。

 『私が語りはじめた彼は』の“彼”とは、大学教授の村川。その村川を複数の“私”が綴る物語です。

 村川が子供のように無邪気で絶望的なまでにロマンチストであったために起こった不幸の数々。村川の元妻、彼の不倫相手(のひとり)である女の夫、村川の息子、再婚した妻の連れ子、元妻の娘の婚約者、村川の教え子が、彼について思い出して語られます。彼らが、村川、村川によって狂わされた自分の生活や滅ぼされた未来と過去、傷ついた心を語ります。またそれを語る彼らを点にして繋がる第三者についても描かれます。

 正直、前半の『結晶』『残骸』『予言』までは普通に読めました。ありきたりでステレオタイプな言い分ばかりで興味を惹かれないこともしばしば。作家の「どうにか人物に深みを持たせたい」気持ちばかりが浮き彫りになり、登場人物が語る村川像よりも、「作家の村川と現在の主人公像」を読まされるので、少したらっとしてしまいますが、続く『水葬』『冷血』は素晴らしいです。

まず、主人公がいきなり狂っています。

『水葬』の主人公は、学生を名乗る探偵だが、彼が監視しているのは、村川が再婚した妻の連れ子の綾子。

 綾子は義父にも新しい家族の型式にも馴染めないし、「染まりたくない」と、黒服を着る。彼女を監視する渋谷は雇い主を知らなけれど、綾子は母親だと勘づいているのです。「母親は、自分と義父が密通していると思い込み、自分を見張らせている」と言うが、真相は薮の中。

母親はかつて、自分と村川の家族を崩壊させて村川を手に入れました。奪える相手なら、奪われる可能性もあると猜疑心の塊と化しています。
 

父を奪われ、替わりの父をあてがわれ、母親に憎まれていると思Gadenn010 い込む綾子は、入水自殺する自分を見守って欲しいと渋谷に頼みます。
退屈な監視生活に辟易していた渋谷は、嵐が起こるのを驚喜する・・・1本に2人の狂人ですよ、たまりません。

そして『冷血』。

 血の繋がらない遠い妹が死んだと知り、その真相を探って欲しいと、村川の実娘である婚約者から頼まれた教師が主人公です。白い腰骨の上に、蜥蜴の刺青を持っています。婚約者の義理の妹の死の真相を探り始めるのと同時に、この蜥蜴が、うずき始める。彼の過去も、蘇り・・・
このあたりの変質エロ描写がすこぶる凄い! さすが腐女子、三浦しをん!!

〆の『家路』は、趣味の問題ですが、上の2本の変態的な狂いっぷりは特筆に値するでしょう。

三浦しをんさんが描く狂気は、暴力となり発散される描写となるとまだまだ物足りないですが(『まほろ駅前~』で、行天の腹に刃物が刺さってるところとか)、無表情でも内面は静かに狂って生活している隠されたものとなると、なぜこんなにも魅力を増すのでしょうか?

「私はまだまだこんなものじゃない」と、暗闇で目を光らせているようで、やっと片鱗を見せ始めたなぁ!と嬉しくなります。

多くの女流作家さんのように、女性に幅広く支持される読みやすい読み物ではなく、「触るなキケン!!」のような劇薬指定されかけてこそ本領発揮の作家だと思います。果物が腐りかけが最も美味しいように・・・

村川という嵐に巻き込まれ、倒壊された家屋のような人物たちがいくら彼を語っても、村川という男がどんな人物であったか一切解らないのですが、そういう意図ではないので、それでにかまわないと思うのです。実際彼はそこまで魅力的ではないし、作家もそう思ってるんだろうと思いますし・・・(?!)

  私は好きでした、この作品。

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コメント

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投稿: coachfactoryoutlet.gourmetshave.com | 2013年12月 5日 (木) 12時26分

こんばんは。
夕方ですが。
この、4時~6時頃の挨拶をいつも迷うんですヽ(;´Д`ヽ)(ノ;´Д`)ノ。
…前置きが長くなってしまいましたが、
三浦しをんさん、いつも本屋で見かけるんです。(まあ、有名な方だから当り前なのですが。)でも、いつも通り過ぎていました。(私のアンテナの格好が変に曲がっているのでしょう。)

でも、「触るなキケン!!」と言われてしまうと、好奇心が変に旺盛な私にとっては、この曲がっているアンテナの角度をちょっと変えざるをえないです。

変えます。

投稿: Marunaga | 2009年8月 9日 (日) 18時16分

おはようございます。
もう立秋なのですね。こちらまだ暑いですけれど。

三浦しおんさん、お名前は拝聴していますが読んだことはないですね。腐女子様ですか。腐女子様でも相当腐敗は進んでいるようですね。確かに書かれていますように何でも腐りかけがうまいですね(^_^;)
おもしろい内容のようですね。構造もそうとう凝っているようですね。書かれていますように確かに文才があれば文体はいくらでも変えることができるのでしょうね。小説の文体は作品の大きな比重を占めているでしょうから、これからも色んな作品を書いていくのでしょうね。
「美しく可憐な女を書く男性作家はたくさんいます、けれど粘着質でウザい女を書くことは女性作家にしかできないんでしょうね。」
これも確かにそう思います。観念的には書くことができるか知れませんがズブズブのほんとの所は男にはかけないかもですね。
村川、どんな男じゃいと興味をひかれますね。
人間だれしも平安に暮らしたい心と、危険を求める心が潜在しているでしょうからね。

とこさん、暗いものを読んでいただきコメントありがとうございました。レスを書いていますのでいつかお読みになってください。

投稿: KOZOU | 2009年8月 8日 (土) 06時48分

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