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2009年8月10日 (月)

私の好きな一冊~『片思い』

 東野作品で最初に読んだのが『片思い』でした。それまで東野圭吾という作家も知りませんでしたし、兄が『これ最高だよ。』という言葉がなければ読むこともなかったでしょう。東野症候群に陥ったのは『片思い』を読んだ後に始まりました。

 この片想いという作品は元アメフト部のマネージャーでジェンダー問題に悩む美月と もう一人のマネージャーだった理沙子との夫婦問
題に悩む元スタープレイヤーのQBこと哲郎 ・・・
そして学生時代に美月と付き合ったことがあり、今は資産家の娘婿である中尾の3つの家族の物語だと私は解釈しています。 

1.氏のその経験
2.時折みせる社会的なテーマへの挑戦というかそのテーマを深 堀りした氏なりの読者へのメッセージ
3.ストーリーテラーとしての緻密な複線が絡み合う物語の上手さJansem_work02s 

が見事に折り重ねられて生まれた超一級の小説です。

3つの家族のメンバーはそれぞれに悩みを抱えながら、そして自分の信じた・選んだ道を進み、やがてそれぞれある終点へと辿り着きます。
そこはまた各人の新たな人生の出発点でもあるのです。

最後まで読み終えた時、この小説が伝えるメッセージの感じ方は 読む人の人生経験やその時の心の状態で大きく変わるでしょう。
私は2回目に読んだ時は前回に比べて、前向きなメッセージを強く感じました。

 かの村上春樹氏は優れた小説とは、読む人の年齢・性別・時代の変化に多面的に対応できる要素を備えていて、 いつまでも陳腐化しなことだと言いましたが、この片想いという作品は正にそんな作品です。

 ただのミステリーに留まらず、昔の仲間との友情、恋、社会問題などを盛り込んだ、読み応えのある長編小説です。

 主人公は30代のスポーツライター、そして彼の学生時代のアメフト部の仲間たちがある事件をめぐって苦悩し、やがて秘密がひとつひとつ明らかになり・・・というようなお話なのですが、なんだか失われた青春、変わってしまったそれぞれの仲間たち、それでも変わらない友情などがないまぜになり、とてもせつない気持ちで読みました。

  仲間達の一人一人の個性が、アメフトのポジションの役割と重ねてすごくよく描かれています。主人公を始め、私は仲間みんなに感情移入しながら読みました。そういう人間ドラマ的な魅力がまずひとつ。それから、実はこのお話の縦軸になっているのが「ジェンダーの問題」です。いわゆる「性同一性障害」とか「半陰陽(男女両方の特徴を持った体で生まれてきた人)」とか、一般的にマイノリティの人たちの悩みとか暮らしが小説とはいえ説得力をもって描かれているのがとても痛々しくも有り、興味深くもありました。

 性同一性障害という最近話題になっているテーマと、それにサスペンスがうまく絡めてあって目が離せませんでした。

事件の進展についても、犯人側から確信に迫ろうとする哲郎と、新聞記者の立場から真実を追究する早田の駆け引きが見事です。

 東野作品に出てくる人物は「これでも人間か」と言いたくなるほど冷酷さを持っていたり、温かく心根の優しい人物、機械が相手の一見、何を考えているのか解らないような人物が次々と謎とともに出てきます。この『片思い』は相手を思う気持ちが時に空回りしますが、最後までどうなるか解らない展開に頭をひねったり、こんな時、自分ならどうするだろうという考える機会も与えてくれます。

 私には満点の作品でした。

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コメント

 こんばんは!!!とこさん。

 この作品読みました。正直それまで読んできた東野さんの作風と少し違うので驚きました。こういうのも書けるのかと。
 「性同一性障害」を違和感なく盛り込んでいる所はさすがだと思います。
 なんか読後は心が悲しく、やさしくなる物語でした。

 お聞きしたいのですが、この記事に添付されています女性の後姿の絵の作者はなんという名前の方でしょうか?とても良い絵なので他の作品もみたくなりました。

投稿: おりえ | 2009年8月13日 (木) 01時20分

あ~~~、また(^_^;)
すみません、KOZOUでした。

投稿: KOZOU | 2009年8月10日 (月) 07時19分

おはようございます。
今朝は少ししのぎやすい感じです。

東野さんすごい活躍ですね。
いくつか読みましたけれどこれは読んでいないです。
とこさんの記事を読んでちょっと読んだ気に(^_^;)
小説作りはやはり巧みですね。
「村上春樹氏は優れた小説とは、読む人の年齢・性別・時代の変化に多面的に対応できる要素を備えていて、 いつまでも陳腐化しなことだと言いました」、ほんとにそうなのでしょうね。それだけ作品に厚みがあり、色んな切り口ができると言うことなのでしょうね。
ジェンダーの問題書くのはむずかしいと思うのですがサスペンスとうまく絡めて書いてあるのですね。
いつもながらとこさんの旺盛な読書に感服です。
わたしも新しい作品をもっと読まないと(^_^;)
とこさん、いつもコメントありがとうございます。レスを書いていますのでいつかご覧になってください。

投稿: | 2009年8月10日 (月) 06時59分

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