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2009年10月29日 (木)

私の好きな作品~『ライ麦畑でつかまえて』

 これを初めて読んだのは25歳でした。遅すぎたと後悔しました。友達がまさにこの作品に感化された生活をしていて、ちょっと憧れもあってサリンジャーを一通り読みました。異質な世界ではあったし、言葉は汚いし・・・でも未成年ならホールデンの気持ちが解るのだろうなと思ったものでした。私もいつの間にか感化されていた事は否定できません。今も人気のある小説であることは否めないでしょう。村上春樹氏が翻訳し直したことでも物議を醸し出しました。

 私は野崎氏の翻訳しかまだ読んでいないのですが、春樹氏のLichtenstein_work09s サリンジャーへの並々ならぬ思い入れが解るだけにいつか春樹氏の翻訳も読んで観たいと思っています。

 大戦後間もなくのアメリカを舞台に、主人公のホールデン・コールフィールドが3校目に当たるボーディングスクールを成績不振で退学させられたことをきっかけに寮を飛び出し、実家に帰るまでニューヨークを彷徨する3日間の話です。
 自身の落ちこぼれ意識や疎外感に苛まれる主人公が、妹に問い詰められて語った夢:自分は、広いライ麦畑で遊んでいる子どもたちが、気付かずに崖っぷちから落ちそうになったときに、捕まえてあげるような、そんな人間になりたい・・・が作品の主題となっていると思います。このクライマックスシーンを導くために主人公の彷徨のストーリーが積み重ねられているようです。

 1945年発表の短篇「気ちがいのぼく」(原題:I'm Crazy)を敷衍した内容となっており、主人公がニューヨークを放浪して家に帰った後、いくらか月日が経過してから「君」に語りかける構造になっています。ブロークンな口語体で主観的に叙述されているため、事実とは異なると思われる表現や支離滅裂な文体が見られます。(参考文献より)

 今では、その当時の若者言葉を記録している本として、参考文献にされています。ある米映画で『お前はいつまでもホールデンだな』と茶化されているシーンがありました。どのようにこの話を参考文献にしているのかとても興味深くもあります。その独自な文体に加え、欺瞞に満ちた大人たちを非難し、制度社会を揶揄する主人公に共感する若者も多いのですから。

 しかし攻撃的な言動、アルコールやタバコの乱用、セックスに対する多数の言及、売春の描写などのため、まだピューリタン的道徳感の根強い発表当時は一部で発禁処分を受けています。若者の熱狂的な支持と体制側の規制は、アメリカの「暗部」の象徴としての役割を負うことになりました。ジョン・レノンを射殺したマーク・チャップマンも、レーガン元大統領を狙撃したジョン・ヒンクリーも愛読していたそうです。

 全世界の若者に与えた影響は凄いもので発表以来60年近く経った今でも版を重ねています。累計発行部数は全世界で6000万部、アメリカで1500万部を超え、2003年時点でも全世界で毎年25万部が売れるといいます。2002年には野崎訳の累計発行部数が250万部を突破しました。

 単なる、世間知らずの若者が大人への通過儀礼への葛藤を描いPubne た本ではなく、主人公には何気ないものが、インチキに見えたり逆に取り留めのないことがまいったなどという主張を独断的に展開していく姿に、現代的な孤独のヒーローを感じる読者が多のでしょうね。ヒーローといっても、ケンカは弱く、スポーツもさして出来ず、成績不良な落ちこぼれなのですが、ある一貫した主義・主張がある気がするのは何故なのでしょうか。

 ホールデンは純粋で傷つきやすい人間だと感じました。頭もいいし、モラルもあります。しかし彼自身はまったく逆のことを言い、逆のことをしようとする・・・簡単に言ってしまえば、彼は理想と現実の相反するものに苛まれているのだと言う評価もあります。眼の前にある景色に割り切れない思いを感じ、それを未熟な彼は消化できないのでしょう。そういう青少年は今も確実に悩んでいるのです。だからモラトリアムという言葉も使われたのでしょう。

 また、父親も、重要な位置をさしているのかも知れません。父親は同性の先輩として、こうした自己形成の不全な子供に対し、何らかの役割を負わねばならなかったとも言えるのかもしれません。
 しかし間違いなくホールデンの父親はそうした義務を放棄しています。彼を息子を全寮制の学校に放り込み、放校になってもまた新しい学校に放り直すだけ・・・。最初の学校からドロップアウトしたとき、父は息子が何故そんな不始末をしでかしたかを考えたのでしょうか・・・もちろんそれなりの悩みはあったのかもしれません。しかし行動としては何も示してやらなかった、少なくともホールデンが感じるようなことは何もしなかったのは確かでした。仕事にばかり入れ込んで、自分を振り返ることも無い背中ばかりの遠い存在、それが父親なのだと思っていた、これは悲しいことです。誇れる父親がほしいのでしょう。ホールデンが学校という枠の中に納まりきらないのも、社会を斜めに見ているのも、既存の権威を馬鹿にするもの、ある意味父親に対する反抗もあったのではないでしょうか。
 
 でも父親だけが原因ではないと私は考えます。今の日本社会の父親は多かれ少なかれ、家族の為に奔走してる、そのために子供と向き合う時間が少ないと言う現状で子供たちがみんな現実逃避している訳ではないのですから。

 たぶん兄のD・Bという人間は、ホールデンにとっては父よりもずっと身近で、目標になるほど先を行く存在であったのだろうと思います。しかし兄はシナリオ書きとしてハリウッドに行き、たぶんその仕事があまり上手くいっていなかった・・・。そんKayama_work05s な姿を見て、彼は自分がこれから経験する挫折を予感してしまったのかもしれません。

 こうしたホールデンの心理的な混乱が象徴されているのが、タイトルになっている“The Catcher in the Rye”です。将来の目的を見出せない彼は、ライ麦畑の中で遊ぶ子供たちを、崖に落ちる危機から救う“Catcher”になりたいという意味不明な夢想を幼い妹に話して聞かせます。このとき、子供たちというのは、もちろん話し相手のフィービーも含まれますが、幼い頃の自分と、もちろん死んでしまった弟のアリーをイメージしていますね。平和で何の疑問も無かった少年時代、彼は世界が自分を受け入れない存在だとは知らなかったのだと思います。すべての子供たちが、いまの自分のように、途方も無い深みに落ちてしまわないようにしてあげたい・・私はホールデンが自分を捕まえて欲しいと願っていると思っていましたがそうではないのですね。
 またこの作品では主人公の語りの中で物語が進むのですが、今のあらすじは、あくまでもホールデンの外側に視点を据えているだけとも思えます。

 内側の視点はもっと難しい(サリンジャーを知ることが難しいように)に違いありません。私はそここまで踏み越えることが出来きたのでしょうか・・・
 『キャッチ・インザ・ライ』は読み手によっていくらでも解釈が出来、ヒーロと思う方とアンチヒーローと思う人がいて、それでいいと思います。

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コメント

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投稿: christian louboutin online | 2016年1月23日 (土) 11時33分

カッコいい!興味をそそりますね(^m^)

投稿: コーチ バッグ | 2012年10月19日 (金) 03時57分

おりえさん、コメントありがとうございます。私も捕まえてほしいのはホールデンだとばかり思っていました。苦い思い出です。でも春樹氏を好きなおりえさんなら春樹氏が受けた影響も解るでしょうね短編のほうに香りが篭っていたりしますよね。また妙なメッセージで驚かせてごめんなさい。今気になる女性NO.1かも(笑)。
 ありがとうございました。

投稿: とこ | 2009年10月30日 (金) 05時50分

 この作品を私も同じような年齢で読みました。
 そして同じくもっと若い時に読むべきだったと思いました。
 本にも読むべき旬がありますが、この本は正にそういう本です。
 タイトルの「ライ麦畑で捕まえて」は主人公が私を捕まえてという意味だとずっと思っていて、読んで初めて主人公が捕まえたいという意味だったのを「へえ~」と思った記憶が何故か強く残っています。
 永遠のスタンダードの作品ですね。
 まだ何者にもなれない、自分が何者かわからないそういう若者の普遍的な心の景色が素晴らしくかけています。
 

投稿: おりえ | 2009年10月30日 (金) 00時44分

茶々君のご主人様いつもありがとうございます。やはり親の
役割は大事なのですね。モンスターが発生することを私も危惧するところです。大人がもっと感心を示し、理想の姿になっていたいものですね。そういう大人が少ないのもきっと、私を含め多いのも問題なのだと思います。大人として、いえ、人間としてご主人様のように尊敬できる人が子供の周りにはいてほしい、そう思います。
 ありがとうございました。

投稿: とこ | 2009年10月29日 (木) 11時35分

KOZOUさん、コメントありがとうございます。そうですね、今読むときついかもしれないですね。でも当時はサリンジャーと村上春樹を同時並行して読んでいたので、ワンクッションおいて間接的に読めたことが良かったのかもしれません。ただ、これがアメリカの教科書に載るのは良く理解できません。他の作品もあまり若者に行動だけを影響されることは危惧するところです。でもホールデンは私にとってアンチヒーローですがどこか憎めないのが魅力です。
 ありがとうございました。

投稿: とこ | 2009年10月29日 (木) 11時23分

おはようございます。
今日もいい天気です。

わたしもこれはジョンレノンが暗殺されたあとですからだいぶアダルトになってから読んでいます(^_^;)
確かに10代で読んでいればもっと違った感じを受けたでしょうね。
読んだときはちょっと恥ずかしいような懐かしいような、変な気持ちでやはりのめり込むことはできませんでした。
一つの時代を象徴した作品であることはまちがいなく、そんな作品はいつの時代にも受け継がれるようにこれからも読み継がれていくのでしょうね。
書かれてありますように「彼自身はまったく逆のことを言い、逆のことをしようとする・・・簡単に言ってしまえば、彼は理想と現実の相反するものに苛まれているのだと言う評価もあります。眼の前にある景色に割り切れない思いを感じ、それを未熟な彼は消化できないのでしょう。」なのでしょうね。これは的確な表現だと思います。
いつの世も少年から見ればこの世は偽善に満ち大人は信じられない、そしていつの日かその大人になっていく、そしてガラスのような神経も摩耗していく、まあ、そうでないと「大人」にはなれないのでしょうけれど。
今読んだらもっときついと思います。
青春の切ない墓標なのでしょうね。

とこさん、いつも読んでいただきコメント大変ありがとうございます。レスを書いていますのでいつかご覧になってください。安藤昌益は興味ありますね。

投稿: KOZOU | 2009年10月29日 (木) 08時35分

いつもながら
たくさんの本をお読みなんですね。

確かに、父親の役割はとっても
大切なことだと思います。特に
成長期における家庭の役割。

人間は最初から人間ではありませんし
環境が育てるところが大きいですよね。

幸い、息子には高校進学まで
かなり時間を割くことができました。
その後は、なかなか仕事で
帰れなくなりましたが
ちょうど良かったとおもいます。

いまは、個食にならざるを得ない
さまざま家庭環境が増え、
そのような経験をもたない親も
多く、すべて学校まかせのモンスターも
生まれているようですね。

低俗な番組が増える社会でSH、
これからも改善される様子はないし、
本離れも進み、人の痛みがわからない
自己中の若者がますます増えそうです。

残念です!

そんななか、とこさまのブログ
やっぱり格調高いですよ!
おみごとです。

でも
無理はしないでくださいね。
楽しみながらの
マイペースですよ。

投稿: 茶々 | 2009年10月29日 (木) 08時32分

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