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2009年12月15日 (火)

私の好きな作品~『花の降る午後』

 宮本氏と言えば、川三部作を思い浮かべられる方が多いと思います。私も三部作を読んでから、次々と読みふけった時期がありました。

 何故『花の降る午後』を選んだかというと、中でもとりわけ37歳の未亡人の働く姿や憂いに満ちた姿が印象的だったからでしょう。

 最愛の夫を癌で亡くし、神戸の老舗レストランを女手一つで切りKaii2 もりする典子が主人公で、仕事は厳しく人の良いシェフ、実直で有能な支配人、懸命に働くウェイターたち・・・。お店を継いで4年間を振り返ると彼女はとても満ちたりる。
 そんなある日、生前の夫から買ってもらい今はお店に掛けていた絵画を貸してくれという青年が現れた。彼の名は高見雅道。その『白い家』という絵の作者だった・・・。一方、店を狙う魔の手が伸びてきていた。典子に訪れた恋、そして』闘いが始まる。

といっても、ミステリーではありません。作者曰く『幸福物語』です。宮本氏は、善良な一生懸命に生きている人々が幸運にならなければ、この世の中で小説など読む値打ちはきっとないでしょうからとあとがきに書いています。

 考えてみれば終わりの1ページを読み終えて、この後、どうなってしまうのだろうと言う余韻が本や映画で気になることが、楽しみで読み続けてきたように思います。物語が終わって登場人物が消え、私だけが残る、でも最初の立ち位置とは同じではないことに気づくのです。

 人の心の喜怒哀楽を通過してきたことで、人生の大事なことと、そうでないことが際立って見えるのでしょうね。宮本氏の作品はまさに文芸の芸と呼ばれるところだと思うし、それはたんにテクニックというものではなく、読者への優しさや愛情の表われではのではないかと考えさせられました。

 お店への災難も悪人と思しき人物が実は騙されていたり、典子の強い見方が物語に表面的には顔を出さないで災難を解決してくれたりと人間関係はかなりややこしいのですが、もう一方で典子と高見の恋愛は結末が見えないのです。

 一番気になるのがこの二人の行方ですが、レストランをとるか、恋人をとるかは読んでいて、気が気でなりませんでした。

どちらをとっても愛情と言うしがらみがついてくる・・・宮本氏が典子の目線でとらえているのも面白いですね。女性では書けない文体も沢山出てきて、典子をとても魅力的に見せてくれます。
 
 年下の高見はこういいます。

『しがらみを捨てるっていうのは煎じ詰めれば人生から降りることになるよ。人生からおりた人間の未来に花が咲いたためしは無い。』と。

  随分解ったようなこと言うななんて一瞬思いましたが、そうではKaiii021 なかったようです。充分愛情があるからいえた言葉なのですね。男と女が完全な幸福を描けないのは、平和な結婚生活も恋愛中の恋人同士でも常に潜在的な危機にさらされているからなのでしょう。いつ、死や病気が襲い掛かるか知れないですものね。

 高見は一度パリに行きますが、戻ってきて、そっと道にたたずみ、典子のレストランを見上げます。典子もはやる気持ちをおさえられないけれど、ここで抱き合ってどうなるのか、過去のしがらみも恋愛感情も消えはしないのだから。

物語が終わっても典子は悩み続けるのでしょう。そんな気がします。美しい女は悩むことでますます美しくなるのではないでしょうか。こういう女性に花は午後と言わず夜になっても降り続けるのでしょう。ここで鼻持ちならない女性になるものですが、宮本氏の描く女性はどこまでも賢く、誠実です。

 映画化もされたようですが、そちらではレストランのスキャンダルをめぐって話が進み、あの絵の裏から夫の手紙が出てきて隠し子がいることなどスリリングな展開がされるようです。そこでは典子の燐とした姿を垣間見れるでしょう。どんな終わりになっているのか興味がありますが。

 久々に読み返してみて、典子という女性にはやはり花が降るに値すると感じました。『花の降る午後』と言うタイトルも意味がようやく解った気がします。

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コメント

おりえさん、ご訪問、感謝します。宮本先生の作品はいいですよね、ホントに安心して読めます。でもこの作品の中でもスリリングな場面はいくつも出てくるんです。でもきっと悪いほうへはいかないなって、多く氏の作品を読んできたので、そうおもってしまっているんですよね。でも恋愛は先が見えない、これが後をひくんですよ。特にこの作品は一女性としても考えることが多かったので、この年になってやっとわかってきたことが多かったです。是非読んでみてください。
 ありがとうございました。

投稿: toko | 2009年12月17日 (木) 06時46分

 とこさん、こんばんは!!!

 宮本さんの作品は何作かつまみ食いしているのですがこれは未読です。是非読まねばと思いました。
 
>> 宮本氏は、善良な一生懸命に生きている人々が幸運にならなければ、この世の中で小説など読む値打ちはきっとないでしょうからとあとがきに書いています。

いい言葉だなと思いました。宮本さんの作品はそういう人を書いているのが多いですね。不幸を抱えていても未来へ歩き出そうとする締めなどが多いですし。
 そういう意味では宮本さんの作品は割合安心して読めるというか、作者によってはドキドキする結末をよく持ってくる人も多いので嬉しいです。
 

投稿: おりえ | 2009年12月16日 (水) 00時34分

茶々君のご主人様、ご訪問ありがとうございます。ご主人様に良く似合う作品のような気がします。ご主人様が日頃言われておられることが、そのまま作品になったみたいで、本当に好きな本です。いわれますように、享楽だけの幸せではないお話ですが、皆それぞれ衣をまとっている、しがらみがあるのだと思います。でもそれは嘆かわしいことではないのだと教えられたような気がしています。そう思えるかどうかはホントに難しいと思いますが・・・
 頑張ることを続けていきたいですね。私は茶々君やご主人様から元気をもらっているので、頑張り続けられると思います。
P.S ありがとうございます。嬉しいです。茶々君のスライドショーも出来そうです!!ワーイ!!

投稿: とこ | 2009年12月15日 (火) 09時38分

KOZOUさん、ご訪問ありがとうございます。本当に典子さんの姿には感動します。宮本先生の文章は本当に細かな部分まで美しく描写されていいて、なんというか氏の描く女性はこうあって欲しいという願望なのか、本当にこういう女性と接してきたのか、わかりかねますが、こういう女性は憧れます。
 いかに日常を魅力的に生きるかと考えるのもいいものですね。もっと凛としていながらしなやかさを持った女性になりたいと日々思うだけの私です。花の降る午後がきたら読んで見て下さい。
 ありがとうございました。

投稿: とこ | 2009年12月15日 (火) 09時20分

とこさんともなると
そのように本を深く多くたしなまれるのですね~
一生懸命生きている人が幸せにならないと
いけない。いい言葉ですよね。
懸命になにかを追い求める
そのことが幸せの本質なんでしょうね。
成長の苦しみも含めて・・

そして身に着くたくさんのしがらみの衣も
脱いでしまうと
幸せも
どこかへいってしまうのでしょうね。

享楽部分だけで幸せが構成
されていない分むつかしいですね。

PS:茶々がとこさまのお役に立つのであれば
こんなうれしいことはありません。
全力でとこさまを茶々が防人となって
お護りいたします。
ご自由にお使いくださいませ。

ありがとうございました。

投稿: 茶々 | 2009年12月15日 (火) 07時40分

おはようございます。
今日は寒さはどうなるかなー。

お~~宮本輝さん、好きですね。
川三部作、ほんとによかったですね。
まず文章にしびれます。一字一句もゆるがせにしない、厳しい姿勢、いまははやらないかも知れないですが、文章はわたしにとっては文学の大きな魅力です。
残念ながら「花の降る午後」、読んでないのですが本当にタイトルもいいですね。
記事を読ませていただき物語の雰囲気がよくわかりました。
「善良な一生懸命に生きている人々が幸運にならなければ、この世の中で小説など読む値打ちはきっとないでしょうから」この言葉は同感ですね。確かに作品には無名の庶民の生きる喜びと切なさがよくでていると思います。
「こういう女性に花は午後と言わず夜になっても降り続けるのでしょう」すてきですね。
せめて私にも造花でいいから降ってほしいですね(^_^;)
凛として思慮深く、はかない、典子さん、そんな女性なのでしょうね。
読書予定に入れておきたいです。

投稿: KOZOU | 2009年12月15日 (火) 05時37分

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