« 永遠の悲劇~『ハムレット』 | トップページ | 懐かしの作品~『さらばテレビジョン』 »

2009年12月 9日 (水)

私の好きな作品~『パズルパレス』

 アメリカ国家安全保障局(NSA)が暗号解読のため開発したスーパーコンピューター「トランスレータ」。 これによって暗号の解読が成功すれば一般国民のプライバシーの侵害および、政府による弾圧に繋がるという懸念があったため、NSAは表向きには解読に失敗したと発表した。が、しかし、それは秘密裏に運用され、テロリスト達の 電子メールの暗号を解くことで、数々のテロを未然に防いでいた。パズル・パレスとはNSAのニックネーム。地球上で最も優れた暗号学の頭脳が集まる場所のこと。

  ある休日、暗号解読課主任スーザン・フレッチャーは突然NSAに召集Pazuruparesu001される。 プライバシーの観点からトランスレータの運用をよく思わない元スタッフによって開発された、解読不能の暗号化技術「デジタル・フォートレス」(電子要塞の意)が発表され、暗号を解くパス・キーがオークションに掛けられたというのだ。
 もし、トランスレータにかけても解読できないこの暗号化技術が世に広まれば、アメリカはテロを防ぐことが困難になる。開発したエンセイ・タンカドはパス・キーを協力者にも預けていたため、実力行使に出る事も出来ない。オークション中止の条件はただ一つ、「トランスレータの存在を外部に発表する事」であった。説得を提案するスーザンであったが、開発者のタンカドが既に心臓発作で死亡した事、そして、恋人のデイヴィッド・ベッカーがパス・キーを含むであろうタンカドの遺品を回収しに旅立った事を知らされる。スーザンは、協力者がタンカドの死を察する前に、その正体を突き止めなければならなかった・・・

 私達が夢物語だと思っているような巨大な国家機関や、この地球すべてのマクロを司る宗教組織など、巨大組織をダンブラウンさんは、いつも舞台に選ぶのには感嘆します。『天使と悪魔』ではバチカンであったし『デセプションポイント』ではアメリカ合衆国政府と国家
偵察局でした。

 こうした組織は、その存在意義や活動があまりに多岐にわたるため、なかなか物語のベースには乗らない・・・これをまるまるメイン舞台にしてしまうという物語は無かったように思います。きっと、これらの機関は特にここ20年で肥大化したという事もあり、なかなか想像力が追いついていたのかもしれません。でもダンブラウンさんは、これらの巨大機関をメインの舞台としています。10年前に書かれた作品なのにです。凄いです。

 そこに属する働く人々のミクロの物語を等身大に描くことなど出来るはずがないと思っていた私は驚きました。

 人間社会には何処にでもあるような話を、力量がない作家だと、マクAnnri008_2ロの重みに比較して、ミクロの関係性のレベルが変だとバランスが悪くなり、そんな思いでマクロの機関を運営なんか出来ないと思っていたのですが、、ダンブラウン氏は違いました。

 場面が目まぐるしく切り替わり、息つく暇もない上巻。ああ終わったと思わせといてぜんぜん終わらない下巻。やや強引な展開や、登場人物の立ち位置がよく分 からない箇所もあり、全体的に粗削りな印象を受けたことも事実です。と言っても、続きが気になってつい読みすぎてしまうスリル感は著者の得意とするところなんですね。

 あまりに肥大化してその存在が意味不明になりがちで、霧のように良く見えない巨大機関を、それを支える人の動機にもどして、その組織設立の理念みたいなものをを繰り返すことにより、この複雑怪奇なマクロのシステムが支配する現代においても等身大の人間たちが、ミクロの人間関係に投影し、その組織の本義を支え得るために苦しんで戦っているのだ、ということが生き生きと描き出されているのには脱帽です。

 最後の最後で、個人的なミクロの復讐と、そもそもその組織合衆国にとって、世界にとって、意味ある組織であるためにはそのままでいいのか?という問いを突き付けられる物語構成になっていることが何より読んで良かったと思える瞬間でした。

 謎解きは他の作品に較べると少ないですが、安心して読めるので私は好きです。

|

« 永遠の悲劇~『ハムレット』 | トップページ | 懐かしの作品~『さらばテレビジョン』 »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

おはようございます。
昨日からよく降ります。

とこさん、いつも読んでいただきコメント大変ありがとうございます。レスを書いていますのでいつかご覧になってください。

投稿: KOZOU | 2009年12月11日 (金) 06時10分

茶々君のご主人様、いつも読んで下さりありがとうございます。
そうですね、今の世の中暗号だらけですね。それでもいたちごっこは終わらない・・・何の為の暗号なのかさえ解らなくなることがあります。国家機密などは別に考えると、我々が生きていく上で本当に必要な暗号などたかが知れてますよね。でも暗号にしたがる・・・これは私たちにも責任があると思います。本当に公にしたくないことなどあるのでしょうか、信頼関係さえあれば、と思ってしまいます。秘密にするから知りたくなる、そんな深層心理を揺さぶられているみたいで妙な気分です。
 気分を害されたのではないですか?
 信頼関係、大切にしたいと思います。
ありがとうございました。

投稿: とこ | 2009年12月10日 (木) 10時25分

KOZOUさん、読んで頂けたのですね。私自身まだ面食らうところの多い作品だったのでうまく伝わるかどうか気になっていました。本当にダン・ブラウンしには脱帽です。兄が本を持っていたのでちょっと拝借しただけのつもりが嵌ってしまいました。私は本来こういう作品は読まないんですがマシンガンのごとくダダダっと。でも人間もうまく書かれてますよね。これからはこういう分野も開拓すべきですね。でも『天使と悪魔』のほうが正直スリリングな分、面白かったかもしれません。と書いておきながら失礼。ホントにありがとうございました。

投稿: とこ | 2009年12月10日 (木) 09時48分

「ニイタカヤマノボレ」の真珠湾攻撃の合図を
暗号といえば思い出しました。どっちかといえば
符丁のような単純なものでしょうけど。
最近は、パスワード、暗証番号・・・・
本人確認の指紋、角膜照合・・・などなど
国家機密以外に個人情報の管理についても
大変高度な社会になりましたね。
でも
ほんとに守るべき秘密って
健全な社会のなかではどれだけ
あるのだろうかと思ってしまいます。

今ほど、暗号と解析の技術のいたちごっこ
の社会はないような気がします・・・

投稿: 茶々 | 2009年12月10日 (木) 07時29分

こんばんわ。
今日も寒かったです。

とこさん、このようなのも読まれるのですね。
知ってはいたですが読んでないですね。
ダンブラウンさん、ほんとにスケールの大きな作品を書きますね。ダ・ヴィンチ・コードしか読んでないですけれど天使と悪魔とかもきょうみありますね。
設定も極めて現代的なようでよくこのようなものを対象に書けたと思います。
書かれていますように、マクロとミクロの整合は難しく「ミクロの物語を等身大に描くことなど出来るはずがない」とわたしも思いますがうまく書いてあるのですね。
このての小説は好きです。
ジョンルカレとかジャックヒギンズなど古典ものが多く現代物はご無沙汰でしたが読んでいたいですね。
設定もほんとにリアルな感じですね。
アメリカはテロ防止には心血を注いでいるでしょうjからきっとものすごく緊迫したドラマなのでしょうね。

投稿: KOZOU | 2009年12月10日 (木) 00時49分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/528484/32551197

この記事へのトラックバック一覧です: 私の好きな作品~『パズルパレス』:

« 永遠の悲劇~『ハムレット』 | トップページ | 懐かしの作品~『さらばテレビジョン』 »