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2009年12月 6日 (日)

永遠の悲劇~『ハムレット』

 最初に読んだのはたしか小学生でした。父親の亡霊、オフェーリア、『生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ。』、『尼寺へ行け!』etc・・・こんな風に断片的にしか覚えていなかったのに二度と読むことの無かった作品なのです。

 長いお休みを頂いて、何が読みたかったかというと、何故かシェShekusupia001 ークスピアだったのです。かのつかこうへい氏が横目でシェークスピア全集を観ながら、『オレはあんな綺麗な言葉は使えない!!』と言わしめたことも有名な話ですよね。で、読み直してみました。できれば翻訳ものじゃなく英語で読めたら良かったのですが・・・

 『ハムレット』ほど批評家を悩ましてきた劇は類を見ないでしょうね。毎年発表されるおびただしいほどの批評、論文がでるらしいことからも分かります。決定的な解決はありそうもない・・・にも関わらず、というより、だからこそ、人は問い続けるのでしょう。

 だから、むしろ、はじめから人間の内面宇宙を問うことをテーマにした劇として見た方がすんなりと受け入れられるのではないでしょうか。しかし、人間の内面宇宙そのものが、すでに迷宮だと思うので、人は永遠に問うことをやめられないのではないでしょうか。だから、『ハムレット』論も永遠に終わることはないでしょう。こうした堂々巡りが『ハムレット』の最大の魅力なのです。すっきりとした答えが出ない、不思議な作品でした。

 しかし、この作品により、人類が初めて人間の内面と正面から向き合うことになるのだから、『ハムレット』が人類の精神文化に与えた影響は計り知れません。シェイクスピアもかなり力を入れて執筆しているように思います。
 ある学者の計算では、シェイクスピアはそれまでの作品で使った ことのない単語を約600語、この作品につぎ込んでいるそうです。しかも、その多くは英語の歴史でも初めて使われる意味や言葉でした。斬新な経験を表すには斬新なことばを必要とします。シェイクスピアは、人類がまだ経験したことのない宇宙を前に、その天才を振りしぼるようにして、新しいことばを生み出していったのだと思います。

 1997年、『ハムレット』は映画化されていますね。お芝居ではすっかり御なじみです。

 大まかなあらすじは、2ヶ月前に死んだ先王が亡霊となって毎夜現れる、と友人ホレーシオから知らされるハムレット。父親である先王の死、また母ガートルードと現在の王との結婚により心を痛めていたハムレットは亡霊に会いに出かける。先王の亡霊は、弟である現在の王に毒殺されたことをハムレットに打ち明け、復讐をするよう告げる。
 乱心したふりをするハムレットと、彼を心配する王と王妃たち。内大臣ポローニアスは、娘オフィーリアへの恋心がハムレットの奇行の原因ではないかと考える。王とポローニアスはハムレットとオフィーリアを会わせ、彼の悩みの原因を探ろうとするが、ハムレットは彼女に尼寺に行くよう言い放つ。Hamuretto002
 そんな中、芝居を行うため役者たちが城を訪れる。ハムレットは芝居に王と王妃を招き、役者たちに先王の最期とそっくりの暗殺場面を演じさせる。王は動揺し、その場を去る。母である王妃に呼び出されるハムレットだが、彼は彼女の再婚を強く責め、壁掛けの後ろに隠れていたポローニアスを刺し殺してしまう。王は手に負えなくなったハムレットをイギリスに行かせることを決める。
 父ポローニアスの死にショックを受け、狂乱するオフィーリア。兄レアティーズは父の復讐のため王のもとを襲撃するが、王はポローニアスの死がハムレットの仕業であることを打ち明ける。
 イギリスへ向かう船上、ハムレットは王がイギリス王宛てに書いた手紙を読む。そこにはイギリスに到着したらすぐハムレットを処刑するよう依頼する内容が書かれており、王の裏をかくためハムレットは1人デンマークに帰国する。ホレーシオと墓場にやって来た彼は、オフィーリアの埋葬現場に出くわし、彼女が小川で溺れ死んだことを知る。父への復讐に燃えるレアティーズから決闘を申し込まれるハムレット。
2人は王や王妃たちの前で決闘を始める。王はハムレットを殺害するため毒入りの酒を用意していたが、王妃が息子の幸運を祈って乾杯をするためその酒に口をつけてしまい、彼女は命を落とす。レアティーズは毒を塗った剣でハムレットを傷つけ、自らもその剣で傷を負う。王の策略を打ち明け、死ぬレアティーズ。ハムレットは王を刺し、毒入りの酒を飲ませて殺害。ハムレット自身も、ノルウェー王子に王位を継がせると言い残し死ぬというものなのですが、そこにはストーリー以上にハムレットの苦悩が細やかに表れていますね。
 ここでも『復讐』がキーワードでした。

どういうふうに読み込んでも、まだまだ拡がりがある、という奥行き の深さをもつものが、古典と呼ばれるのであれば、「ハムレット」はその筆頭格でしょう。

 シェイクスピアのどこが面白いのですか、と聞かれれば、即座に、台詞が面白いと答えるでしょう。ストーリーもたしかに面白いのですが、シェイクスピアはそれまでに書かれた詩、物語、劇を種本として自作を書きました。

しかし、シェイクスピアの作品が数え切れないほどの人々に愛読されているのはなぜか?

 台詞にその答えがあるのでしょう。台詞がストーリーに深みを与えているのです。台詞が拓き出す世界は無限の広がりを見せ、シェイクスピアと讃えたのだと思います。

 シェイクスピアは舞台のために書いたのであり、書斎での読書には向かKlimt06ないのではないかと思ったほどです。だから、まだシェイクスピアの生の舞台を見ていない人は、今すぐにでも見に出かけなければならないと思います。とにかく舞台で語られる台詞を聞くことが大切だと感じずにはいらませんでした。そうすれば、たとえわずかにせよ、台詞が本来持っている力に気づくのでしょう。そういう私も生舞台は観ていませんが、いつだったか教育テレビで見たことがあります。それは現代劇に近い形でしたが。

 シェイクスピアの言葉は、舞台に放たれると、突然、生き生きするのではないかとつくづく思いました。
 また、シェイクスピアの台詞があまりいろいろなことをいっぺんに言おうとしていることが私達に混乱を招くのではないかとも感じました。丁寧に意味を拾おうとするとその深さにどっぷりはまって動けなくなると思います。シェイクスピア世界の凝縮度についてゆけていないでしょう。これはじっくり一生かけて取り組むべき問題なのだと思います。10年、20年経って読み直すと、思いもよらない発見をすることがある、それを痛感しました。それがまた面白いのです。シェイクスピアが私たちの成熟を測る尺度になる、他の作家の作品でも言えることですが。

『血の匂いのする、色好みの下司下郎め!残忍な裏切り者め、情欲まみれの卑劣漢め!さあ、復讐だ!』(『ハムレット』より)

『ジュリエット:おやすみ、おやすみ!別れがあまりに甘い悲しみだから、朝になるまでおやすみを言いつづけていたい。』(『ロミオとジュリエット』より)

 これですもん、つかさんは照れて言えませんね!!

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コメント

A round of applause for your post. Great.

投稿: latina porn | 2016年7月 9日 (土) 07時16分

おはようございます。
今朝も寒いです。

とこさん、いつも読んでいただきコメント大変ありがとうございます。レスを書いていますのでいつかご覧になってください。
熱があると言っていらっしゃったですが、だいじょうぶですか。
そちらは特に寒いでしょうね。
どうかお大事にです。

投稿: KOZOU | 2009年12月 9日 (水) 07時37分

KOZOUさん、おはようございます。そうなんですよ、600語の単語、私もそれを何かで読んでいて凄さを知りました。それが自分が作ったとは、また驚きですよね。日本語のちょっとしたニュアンスで言葉が変わるそういうものではないのかもしれませんね。でも日本語の素晴らしさも再認識できたように思います。ちょっと眠っしまってまだボーっとしてる頭ですみません。度々ありがとうございます。
 KOZOUさんも風邪ひかないでくださいね。

投稿: とこ | 2009年12月 8日 (火) 07時21分

おはようございます。
今朝も寒いです。

とこさん、いつも読んでいただきコメント大変ありがとうございます。レスを書いていますのでいつかご覧になってください。

ハムレットですけれど「シェイクスピアはそれまでの作品で使ったことのない単語を約600語、この作品につぎ込んでいるそうです。しかも、その多くは英語の歴史でも初めて使われる意味や言葉でした。斬新な経験を表すには斬新なことばを必要とします」これはすごいですね。まさに言葉の天才、英語の一つの標準を作ったのですね。

投稿: KOZOU | 2009年12月 8日 (火) 06時13分

おりえさん、こんばんわ!!丁寧なお言葉ありがたく承ります。今更この歳でハムレットでもないよな~とも思ったのですが、内面の葛藤を言葉に出したことはやはり深いですね。言葉の重み、悲しいオフィーリアも魅力的ですね。私も他の作品は深読みしていないのですが、きっと一生つきあっていって自分の成長の糧になるのではとさえ思っています。
 一緒にお芝居みたいですね!
 ありがとうございました。

投稿: とこ | 2009年12月 7日 (月) 23時50分

 とこさん、こんばんは!!!
お恥ずかしい話ですが私はシェークスピアは未読です。
 読んでみたいと思いつつも、あまりにも偉大過ぎて手が出しにくいというか。。。。。

 >>しかし、この作品により、人類が初めて人間の内面と正面から向き合うことになるのだから、『ハムレット』が人類の精神文化に与えた影響は計り知れません。
シェイクスピアもかなり力を入れて執筆しているように思います。

へえ~、これは知らなかったです。彼自身も作品の構想が思い浮かんだ時にこれはイケルと手ごたえを感じられたのかもしれません。勿論他にも偉大な作品を残されていますが、よく作家さんのお話で「神が降臨」するという言葉を出される方が多いですがそういう面持ちだったのかもしれません。


 >>シェイクスピアは、人類がまだ経験したことのない宇宙を前に、その天才を振りしぼるようにして、新しいことばを生み出していったのだと思います。

とこさんて言葉の選び方がセンス良いですよね。この下りにシビレました。

投稿: おりえ | 2009年12月 7日 (月) 01時23分

茶々君のご主人様、お返事遅れて申し訳ありません。書くだけ書いて、あとはグァ~とお仕事してさっき寝たのですが、神経が昂っているのか良く眠れなくて、起き掛けはブログを見る習慣で開いてみて今、気づきました、ごめんなさい。
 本当にお芝居っって数えるほどしか行っていないのですが、基本中の基本、シェークスピアは一度は観たいですね。テレビでも副音声が聞けるなら、英語版でも勉強になりそうですね。
 たしかに声優さんの声のイメージが違いすぎるのも興ざめですね。ハムレットだけに限らず、多くの作品を観て、10年、20年後の私の成長を見守りたいです。
 ありがとうございました。

投稿: とこ | 2009年12月 6日 (日) 23時09分

そうかもしれませんね。
活字で自分の劣等な頭にイメージするより、
視覚を伴って、じかにイントネーションで台詞を
感じることがどれだけ正解であるかとおもいます。

人気漫画のテレビ化でよく
声優さんの声で自分のイメージと
合わないとクレームが殺到していたこと
おもいだしました。

さまざまに奥深い舞台台詞には、
とっても難しいのでしょうね~
いかすも殺すもですね。

シェークスピアってとっても偉大な人で
これからの世代にも
出てきてほしいですね。

投稿: 茶々 | 2009年12月 6日 (日) 06時44分

 KOZOUさん読んで下さり、ありがとうございます。ホントに舞台を真近で観たいですね。学生の頃、英文科の学生がハムレットを英語で演じていたことを思い出しました。英語が達者だったらもっと深みにはまったでしょう。今更ハムレット?と笑い飛ばされなくてほっとしています。
 ありがとうございました。

投稿: とこ | 2009年12月 6日 (日) 04時27分

こんばんわ。
今日は夜更かししています。(^_^;)

シェークスピアは本当に偉大ですね。
現代ドラマも大まかに類型化すればたいてい彼の作品のどれかににているような感じさえしますね。
作劇術、心理描写、そして書かれていますように言葉がすばらしいですね。ほんとに天才なのでしょうね。
そして確かにステージで見ないと真価はわからないのでしょうね。
ハムレットは映画では見たことがありますがステージはないですね。ギリシャ悲劇のような壮大な悲劇、傑作の中でもやはり最高傑作のような気がします。
ハムレットはそしてオフィーリア、永遠の形象になっているのでしょうね。
あの時代これほど緊迫したドラマを作ったのはやはりすごいと思います。
書かれていますように何度読み返しても新しいものが発見できるのでしょうね。

投稿: KOZOU | 2009年12月 6日 (日) 02時53分

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