« 私の好きな作品~『花の降る午後』 | トップページ | 私の好きな作品~『ノルウェイの森』 »

2009年12月17日 (木)

私の好きな作品~『博士の愛した数式』

  80分間に限定された記憶、ページのあちこちに織りこまれた数式、そして江夏豊と野球カード。物語を構成するのは、ともすれば、その奇抜さばかりに目を奪われがちな要素が多いですよね。しかし、著者の巧みな筆力は、そこから、他者へのいたわりや愛情の尊さ、すばらしさを見事に歌いあげます。

博士とルートが抱き合うラストシーンにあふれるのは、人間の存在Gohho009_2 そのものにそそがれる、まばゆいばかりの祝福の光・・・。3人のかけがえのない交わりは、一方で、あまりにもはかない・・・それだけに、博士の胸で揺れる野球カードのきらめきが、いつまでも、いつまでも心をとらえて離さないのです。

 博士は64歳。数学(整数論)専門の元大学教授。数学と子供と阪神タイガース(特に博士が事故に遭った当時、阪神の選手だった江夏豊投手(背番号は2番目に小さい完全数である28))をこよなく愛しています。(ちなみに私はジャイアンツファン・背番号7のセンター野手です。)

 47歳のときに巻き込まれた交通事故により、新しい記憶が80分しか持続しないようになってしまいます。大切なことを記したメモ用紙を体中につけている。書斎のクッキー缶の中に、野球カードや思い出の写真等をしまっていて、他者と接することが苦手で、何を話して良いか分からなくなったとき、言葉のかわりに数字を持ち出すのが癖。特技は、文章や単語を逆さまから読むことと、一番星を見つけること。ニンジンが嫌い・・・

 こんなに素晴らしく面白い作品を今更ながら読みました。読んで数字や数学が本当に美しく感じ取れるようになれたことには驚きました。
 「私」の奔走ぶりも素晴らしいですね。ちょっと目を放すと何がなんだかわからなくなる、そんな中、博士に献身的につくしていきます。

 例えば認知症にかかった親を介護する時、こんな温かい気持ちで過ごせるかと言われたら、同じ悪戦苦闘の中で穏やかに優しくと、言えない現実もあると思います。でも同じ事を何度も何度も繰り返すことを「私」は穏やかに見守っていますね。「私」も最初はどうするべかかなり悩んだと思います。3人が穏やかな暮らしができるようになったのもそれぞれの努力もあったと私は思いました。

 全国の書店で働く人々が選ぶ本屋大賞の大賞作品として第1回受賞作となったそうです。文庫化されると、史上最速の2ヵ月で100万部を突破。2006年1月の映画化という販売促進策で奏功が決定的になりました。ちなみに大賞受賞時の得点は202点だそうです。

 この作品は映画にもなりましたが、どちらも甲乙付けがたいと思います。小説内にいくつもの数式や、証明といったものが出てきますが、むしろ美しいものとして感じられる不思議な作品です。それは、文体や、描写からにじみでるこの小説の雰囲気といったもので、そしてそれを何よりも表しているのが、80分しか記憶の持たない、ひどく優しい博士の存在でした。

 そして子供をとても大切にしている、素晴らしい質問をしたと思わせる才能を持った博士・・・80分しか持たない記憶を持った博士の内面は・・・忘れてしまうという恐怖があってしかるべきなのですが、飄々と生きているように思わされてしまうのは博士の回りに対する優しさは記憶の奥で忘れられない唯一のことだったと思えてなりません。 読み終えた時に、じんわりと暖かい気持ちになれる、そして前向Hakase_001_2 きに生きることの大切さ、それが小説のもつ絶対の力であると私は思っていますが、この本にはそれがあふれています。

 50万部のベストセラーに輝いた、小川洋子原作の同名小説を、『雨あがる』の小泉堯史監督が映画化した作品です。数式という言葉に拒否反応を感じる人は、この作品をぜひ観るか読むかしてみてほしいです(私もそうでした)。

何気なく周りに存在する数の不思議は、人間同士の絆や生きる喜びさえも伝えてくれるといいます。ルートの母の靴のサイズを「24」と聞いて、「潔い数字だ」と微笑む博士。そんワンシーンからも、この物語に込められたユーモアと、温かな人間の姿が見て取れるはず。

 自身は「数学が大の苦手」という寺尾聰氏が、記憶障害の博士という難役を深みあるキャラクターに仕上げており、家政婦役の深津絵里さんは、それに寄り添いながら爽やかな演技を見せています。(goo映画より抜粋)

|

« 私の好きな作品~『花の降る午後』 | トップページ | 私の好きな作品~『ノルウェイの森』 »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

Loving the info on this web site, you have done outstanding job on the posts.

投稿: Migrom eebest8 | 2015年3月26日 (木) 11時12分

とこさんへ
いつもありがとうございます。
私もこの作品大好きです(゚▽゚*)。
人の本当の温かさを感じ、切なくもあり、そして勇気ももらえる、自分の立場のありがたみを感じさせてくれる作品だと思います。

人を見る時に、自然と自分なりのフィルターをかけて見てしまう事が多いのですが、この作品を読んでいると、登場人物の真の人柄を感じ、思わず微笑んでしまいます。

博士は数式を考えられますが、人柄は、全く計算の出来ない純粋な人なんですよね。そこが、いいです(o^-^o)。

投稿: Marunaga | 2009年12月18日 (金) 22時05分

おりえさん、いらっしゃいませ。ダブっちゃってごめんなさい。
でも書かずにいられませんでしたね。先日の小川先生のお話を読んで、さらに内容に深みが増した思いです。
 映画の配役もよよかったすね。映画そのものももちろんよかったです。ホントにどちらもよいというのは稀でしたね。大抵本を読んで、私の場合、妄想を最大限に膨らませるので、小説の映画化はあまり見ないんですけど。
 とにかく病を持った人物の作品なのに、心温まる作品でしたね。優しい気持ちになれました。
 ありがとうございました。

投稿: とこ | 2009年12月18日 (金) 05時41分

おはようございます。
今朝もまた寒いです。
そちらは雪が降っているのでしょうね。

とこさん、いつも読んでいただきコメント大変ありがとうございます。レスを書いていますのでいつかご覧になってください。

投稿: KOZOU | 2009年12月18日 (金) 05時21分

 おお!!!とこさん、遂にこの作品をお召し上がりになられましたか。
 本当に見事な作品ですよね。記事にも書きましたがこの本を読むまでは「数学が美しい」なんて全く思っていませんでした。それがすんなりと容易に理解出来る仕上がりにはただただ脱帽でした。
 
>>何気なく周りに存在する数の不思議は、人間同士の絆や生きる喜びさえも伝えてくれるといいます。

それは物凄く思いました。自分が今存在している世界にこれ程美しいものが潜んでいたという事に感動しました。

 本当に映画も良かったですよね。原作も映画も素晴らしいという稀な作品となりました。

投稿: おりえ | 2009年12月18日 (金) 00時43分

KOZOUさん、いらっしゃいませ。ちょっと世間ずれしているところが私らしいでしょ(と言い訳してます)。おりえさんが以前記事にされていたのを読んで、いつか読もうと思っていました。80分しか記憶が持たないと聞いたときは『明日への記憶』のような重い感じがあるのかと思っていましたが、肝心の博士が明るいのに驚きます。発する言葉も面白くて。
 映画も好評なので、映画で見るのもいいですね。
 ありがとうございました。

投稿: とこ | 2009年12月17日 (木) 18時00分

茶々君のご主人様、いつもありがとうございます。
ほんとですね、前向きに生きるってことの楽しさ、大切さをもっと教育の中に取り入れてほしいと私も思いました。数学ってこんなに美しいんだよ、とか、自分がされたくないことくらいは人にしないでおこうとか、ちょっとした会話で変われることって多い気がします。
 私たち大人がしっかりしなければと思う作品でした。

 ありがとうございました。

投稿: とこ | 2009年12月17日 (木) 17時49分

こんにちわ。
寒いです。

たいそう評判になりましたが本も映画も見ていないですね。
ただブログとかでは結構見て少し読んだ気に(^_^;)
博士がとても優しそうですね。
その優しさは書かれていますように「記憶の奥で忘れられない唯一のことだった」のでしょうね。
すてきな人です。
数字の抽象的な美しさにあこがれるとても純粋な人なのでしょうね。
記憶が80分しか持たない、現実にはとても悲しいことでしょうけれど、数式への純粋な愛情が博士を支えているのでしょうね。ちゃっめっけもあるようで子供の名がルートはおもしろいです。
現実にもこのような記憶障害はあるようですね。
読んだあととても穏やかな気持ちになれる小説なのでしょうね。
少なくとも映画はいつか見てみます。

投稿: KOZOU | 2009年12月17日 (木) 11時10分

いつもありがとうございます。
いいお話らしいですね。
雨あがるのような爽やかな
作品なのですね。
楽しみが一つ増えたようです。

優しさ、生真面目さ、深い信頼
損得計算が跋扈する現代社会には
とっても貴重な存在になりましたね。

前向きに生きるってことの
楽しさ、大切さをもっと教育の
中に取り入れてほしいと
思っています。

今の人を蹴落とすような
教育システムなにか間違って
いますよね。

強きものほど弱きもの
を守る社会でないと・・・・・

投稿: 茶々 | 2009年12月17日 (木) 09時06分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/528484/32638077

この記事へのトラックバック一覧です: 私の好きな作品~『博士の愛した数式』:

« 私の好きな作品~『花の降る午後』 | トップページ | 私の好きな作品~『ノルウェイの森』 »