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2009年12月27日 (日)

私の好きな作品~『オレンジの壺』

 またまた宮本氏の登場です。最近戦争とか闘争ということを耳にして、そいうえば氏の作品にも世界の戦争のさなかで多くを無くし、そんな中25歳の女性が祖父の手紙で一喜一憂し、真実を見つめると言う作品があったことを思い出し、でも作品量が多くて内容とタイトルが一致しなくて探し回った末、思い出しました。それがこの『オレンジの壺』だったのです。

 主人公は佐和子、25歳。1年でバツイチになり、別れ際に夫にJannnudaruku001 「お前にはどこも悪いところはない。だけどいいところも全然無いんだ。女としての魅力も、人間としての味わいも全く皆無だ。」と言われるような、とりたてて幸福ではなかったけれど不幸でもなかった。

 そんな女性がある日、亡くなった祖父から残された日記帳を読み、重大な秘密を知る。そしていつしか大切な何かを追い求め始める。そして『オレンジの壺』とは何か・・・

自分とは全く無縁だった過去の戦争に心を踏み入れていく。祖父の関わった人々の軌跡を追う旅で佐和子は女性とし豊かさを身につけていく物語です。戦前に生きた祖父と現在を生きる孫娘が日記によって結ばれているのです。

 佐和子の祖父は田沼商事の創設者で今は佐和子の父親が社長を務めています。
財産分与で確か祖父の日記を譲り受けたことを思い出し、興味を覚えて読み出してみると祖父が生きた1920年代のパリがどんな状態だたのか、惹きつけられていきます。

 歴史は数学と同じで全く疎い私でも、今この国が戦争を行っているのかとか今このどの国が危ないというくらいはわかりやすく書かれてあるので助かりましたが、ちょうと第1次と第2次大戦の間をくぐるようにして、当時は船で50日かけてパリに行ったとは、ましてやフランス語(商事会社を設立するくらいだから語学は堪能だったでしょうが)では交渉は難しかったでしょう。

 でも何度も、ジャムやマーマレードを売るマダムのもとへ足を運び、交渉にこぎつけ、あげく娘ロリーヌと結婚をしたいと言い出します。

断固反対する母・・・そのうち、ロリーヌに子供が授かります。それから母アスリーヌは承諾しました、ある条件をもとに。祖父は一足先に日本に戻りました。

 ロリーヌの赤ちゃんが産まれるまで母体を何十日もの船にのせるわけにはいかず、月に1度の割合で手紙を交換していました。彼女も赤ちゃんも順調に育ち、いよいよお産となったのに子供も母親も亡くなってしまいます。赤ちゃんは本当に亡くなったのか、祖父は疑問に思いました。当然佐和子もそう思います。居ても立っても居られず、佐和子は滝井というフランス語の解る男性と一緒に現地に飛びました。

日記とともに当時の手紙も見つかり、そこに「オレンジの壺」という言葉が出てくるのです。マダム・アスリーヌとオレンジの壺、そこに祖父の祐介がどう関わってくるのか、ネタバレですが、それは秘密結社です。何故、そんな組織に積極的に加わろうとしたか。

 一つは次第に力をつけていく日本の軍部に危機感を持っていた事が挙げられるでしょう。このままいけば軍部が日本を滅ぼしてしまう。「日本の軍部は、最悪の人間どもの集団だ。あのような品性下劣な連中が軍の核を成している限り、日本は必ず自己破壊の道を歩むのは必定なのだ。」軍部の戦争への道をなんとか阻止したい。そこには、かつて愛したあやという女性が軍人たちによって犯されたという過去がありました。

 もう一つは、アスリーヌ夫人たちの中に優しさがあったからなのだと言います。祖父の日記は2冊あり、表向きの日常が記されたものと裏の日記があり、その裏の日記に自分が彼女たちに共感したのは「・・・やさしさ。そうだ、やさしさだと思う。この単純でありきたりの使い古された言葉。やさしさ・・・。そうだ、いまのところ、私にはこれ以外の理由は考えつかない。私は絶え間なくやさしさを感じつづけたのだ。」と記しています。

 何気ない優しさが一塊になったら国家権力によって迫害された人たちはきっと命がけで助けられると信じたい、それがオレンジの壺の中核でした。そうですよね。

『かつて人間の哲学にやさしさというものが組み込まれたことがあっただろうか。やさしさがイデオロギーになったことがあっただろうか』(川本三郎;書著)

 この言葉にはきっと氏の考えが深く込められていると思いました。でも、戦争に次ぐ戦争のなかでやさしさを持ち続けることはどんなに困難だったでしょう。祖父は結局組織から離れ、日本に戻らなければならなくなります。そしてマダム・アスリーヌはアウシュビッツで殺されます。

 唯一救いだったのは、ロリーヌがスイスで生きて、家族をもったことでしょう。そして佐和子もこの一連の騒動の中ではっきりとした意思を持って行動したことだったと思います。そしてそんな佐和子の本質を子供も頃から解っていた祖父は、金時計でもなく、高価な代物でも無く自分の青春を佐和子に託したのでしょう。人間として女として、戦中に生きた人々とのふれあいは何にも換え難いものに違いありません。

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コメント

It's remarkable to pay a quick visit this web page and reading the views of all friends concerning this piece of writing, while I am also eager of getting know-how.

投稿: Colin Kerr | 2015年12月26日 (土) 17時30分

茶々君のご主人様、返事が送れてごめんなさい。私がいつもの時間に書かなかったのでレス書き様無いですものね。でも茶々刑事さまのお陰で紛失トリックがか解明つかいされたのでしたら、よかった!いかった!です。いろいろ調べてくれたのでしょうね、お時間とらせてすみませんでした。
 宮本さんの作品は私が話すより、読んだほうが解り易いかもしれませんね。戦争で見つけた大切なもの、今の世は、浅く広く物事を考えすぎて、縦の奥行きが無い人が多いから自分の祖先をさかのぼってみると戦争を含め、本当のやさしさが必要ということがよく解る作品でした。使い古されてしまったこのやさしさこそ人を豊かに大きくしてくれるのですね。読んでくださってありがとうございました。

投稿: とこ | 2009年12月28日 (月) 01時55分

なんどもすいません。

とこ捜査主任さまに、今回のコメント消失のトリックが
解明されたようなので御報告にあがりました。
詳細は、宝くじ編のコメント欄をご覧いただくと
わかるかと存じます。        茶々刑事

投稿: 茶々 | 2009年12月27日 (日) 21時59分

こんばんは~~
新しいPCがどんなにかわいくても、
無理せず眠たいときは
ゆっくり眠ってくださいね。
一番の幸せだと勝手に僕は
思っています。

今日も難解なのでコメントできないのですが、
やさしさが救いになるのは
本当だと思います。物でも金でもまして
権力や暴力などでは、人は死にこそすれ、
生きようとする よりしろにはならないと
思います。

人と人がふれあい、
そこに通うあうものがあって
人間が生きている意味・価値を
感じるんだとおもいます。

逆境にあればあるほど
人を救うことができるもの。それが
「や・さ・し・さ」の4文字に隠されたメッセージ
なんだと信じます!

PS:GOOのコメントは確かに入れたようでも
入力ミスではじくようです。イラスト画の薫さん
のところでも起っているようです。入力確認が
いるようです。ごめんなさいね。なんども気を
わるくさせて・・・ Gooの会長にしっかり改善
を言っておきます?

投稿: 茶々 | 2009年12月27日 (日) 20時41分

KOZOUさん、ご訪問ありがとうございます。この作品は売る覚えでしたが、KOZOUさんの記事に少し触発されたようです。戦争の悲劇があちらこちらに散りばめられ、こんな時代を生きた祖父の人生は子供の頃から黙っていることの多かった佐和子の素質を一番良く知っていてくれた、そういう人が必ず人にはいるものだと痛感しました。 『ドナウの旅人』も良かったですよね。どうなるかとひやひやしたのを覚えています。
 KOZOUさんが好きだというのも納得です。
 ありがとうございました。

投稿: とこ | 2009年12月27日 (日) 14時23分

こんにちわ。
いい天気ですが少し冷えます。

お~~これはおもしろそうですね。
宮本さんファンでだいぶ読んだのですがこれは未読なのです。
ドナウの旅人は新聞に連載されていたときとても面白く読み、同じような題材というか舞台が同じようなこの作品のことはその後知りましたけれど。
ミステリーしたてなのですね。
祖父の謎を解くヨーロッパの旅、それだけで魅力的ですね。
オレンジの壺が秘密結社というのもいいですね。
祖父は反戦の人だったのですね。
あの狂気の時代、覚めてあることはきつかったと思いますが、尊敬します。
本当に軍部は狂気の集団ですね。
フランス人は好きですね。
フランス革命以来、圧政にたびたび立ち上がり国を自ら変えてきた。
今のフランスの国旗も国歌もフランス革命時のもの、それだけ世界史を変えた大事件だと思います。前の戦争の時も隣のパン屋のおじさんが命をはってレジスタンス、そんな歴史を持たない日本を寂しい国だと思います。
また感想から離れましたね(^_^;)
オレンジの壺もレジスタンス結社なのでしょうね。
孫娘に記録を託したおじいさんをすてきだと思います。
宮本さんの日本情緒豊かな作品もいいですが、こんな骨太の作品もいいですね。
それもSF調でなくリアルな人間の動きとして書いてあるでしょうから好きですね。

投稿: KOZOU | 2009年12月27日 (日) 13時49分

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