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2010年5月 4日 (火)

私の好きな作品たち~森絵都編

 私が初めて触れた森さんの本は、なんと『にんきものの本シリーズ』の『にんきもののひけつ』という絵本でした。それも立ち読みで・・・。

 でもその印象が強かったので普通の童話作家ではないと思い、また、ネットで調べてみました。すると直木賞をとっていることが解り、『永遠の出口』あたりから「オトナ」を意識した作品を手がけるようになり、『いつかパラソルの下で』が直木賞候補になるなど、本好きにとっては、新刊チェックがはずせない書き手の一人であることが解りました。
  
 児童文学の世界では既に数々の文学賞を受賞している人気作Jannsenn02 家の森絵都さん。一般文芸に進出したのは最近ですが、前作の『いつかパラソルの下で』は直木賞候補にもなり、話題を呼びました。

『風に舞いあがるビニールシート』は「市井でこつこつと一生懸命働く人たちをテーマに書いてみたい」ということで生まれた短篇集です。国連難民事務所に勤務している表題作の主人公・里佳は上司のエドと恋愛し、七年間の結婚生活の末、二年前に離婚。そのエドがアフガニスタンで死に、立ち直れないでいる彼女を、エドが救った難民の少女に会ったという記者が訪ねてきて……。
 我が儘なオーナーパティシエのために雑務をこなす秘書、捨て犬の世話をするボランティア、時間に追われる社会人学生、仏像に魅入られた修復師。温かなユーモアに満ち溢れた筆致で紡ぎだされるハートウォーミングでちょっぴり泣ける一冊です。

 森絵都という作家は、少なくとも今までは、いわゆる「オンナコドモ」向けの作品を多く書いてきた作家でした。でも、このことから想像されがちな「感覚派」の書き手ではない気がします。
 
 彼女は、「甘い」だとか「切ない」だとか、曖昧なニュアンスにいたずらに使うことをしませよね。そういう感覚の薄い皮膜の奥にあるもっと硬質で確かな「何か」を突き詰めていこうとする、文章も「思いつき」で書かれたものではなく、語彙の選び方ひとつとっても、かなり練られていると思うのです。辛くても辛くても苦しくても、それでも生きていくんだ。寂しくなんかないんだ。 周囲に壁をつくって一人でひきこもって過ごしていた主人公が強く、強く自分の力で生きていくようになるまでの流れがとても自然です。これは『リズム』で感じたことです。

 登場人物たちのセリフ以上に、描写によってメッセージを伝えてくれる稀有な書き手だと感じます。
 素直に読めば読むほど、スッと受け入れられると思います。

 重いテーマを軽やかに、心に染みる物語として、森さんは読者の前に差し出してみせた。ストーリーテリングの力、生き生きとした会話、丁寧な心理描写、じーんとくるエピソード。何よりも読者が、限られた情報を頼りに「真」として生きる「ぼく」と一緒に、少しずつ「真」自身を、周りの人を理解していくしかけが効いている。いろいろなことを知った「ぼく」がとりかえしのつかない「真」の人生を思って涙するのと一緒に、読者も同じ痛みを味わうことになるのだ。終盤、「自殺」を「殺人」と置き換えた「ぼく」の言葉が、説教くさくも空疎にも軽はずみにも響かず、すとんと心に収まるほどに。さて「ぼく」の再挑戦は、失われた「真」の人生は・・・
 さまざまな色合いを秘めた人たちで構成される『カラフル』な世界。その魅力的で複雑な世界を生き抜くヒントがぎっしり詰まった作品ですね。

 『つきのふね』はあの日、あんなことをしなければ…。心ならずも親友を裏切ってしまった中学生さくら。進路や万引きグループとの確執に悩む孤独な日々で、唯一の心の拠り所だった智さんも、静かに精神を病んでいき・・・。近所を騒がせる放火事件と級友の売春疑
惑。先の見えない青春の闇の中を、一筋の光を求めて疾走する少女を描く、奇跡のような長編です。

 私の好きな作品ばかり紹介しましたがまだまだあります。ふと考えさせられる作品ばかりだと思い、お勧めしようと考えました。

ちょっと苦手と言う方は物語や翻訳作品をお勧めします。ギスギスした日常から開放されることも大切ですよね。

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書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

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投稿: young pussy | 2016年6月 3日 (金) 16時56分

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投稿: longchamp pas cher | 2014年5月13日 (火) 15時15分

しのぶさん、もう大丈夫なんですか?無理しないでくださいね。
お返事遅れてすみません。私も病院行ったり、人と会ったり珍しくアウトドア(?)してて。
しのぶさんの文章は、私、大好きですよ。ただ楽しいだけでなく、深い意味もこめられていると感じて読ませていただいてます。その証拠にしのぶサンが書いたことはいつまでも心に残っていますから。
 忙しくなったら、コメントは無理なさらないでくださいね。
ほんとうにお大事に。ありがとうございました。

投稿: とこ | 2010年5月 7日 (金) 06時52分

 おはようございます。
 ご無沙汰してしまってどうもすいませんでした。
 またブログ再開しましたのでよろしくお願いいたします。

 言葉を選ぶ。
 とっても重要ですよね。
 深い意味を持たない文節でさえも、作者の意図というのがないところがあってはならないわけだと思うので、言葉を選んで書かないわけには行きません。
 わたくしは短絡的な「楽しい」とか「嬉しい」とかって曖昧な表現を多用してしまう癖があり、いけないなぁといつも思っているのですが、そういった言葉の一歩深いところを書くというのは、単純に「洞察力に優れている」だけじゃなく、「どの言葉を使うか」という点も大きく関わってくるのでしょうから、見習わなければなりません。

 ちょっと毎日が忙しくなってしまったので、いままでのようなペースでは更新できそうにないのですが、内容はいままでどおりで行きますので、よろしくお願いいたします。

投稿: 酒井しのぶ | 2010年5月 6日 (木) 09時11分

おりえさん、こんにちわ!!!
いつもお褒めの言葉、ありがとうございます。
挿絵はやっぱり、ジャンセンがいいですよね、特に女性作家さんのときは(笑)。
私も絵本はうまいけど。。。みたいな気持ちで読みましたが本当に登場人物がいとおしくなりますね。私くらいになると今の若者が何を抱え壁をつくるのかとか、どうやって成長するのかみたいなことが、もう母親みたいな気持ちでハラハラしてしまうんですが、周りのぬくもりって大事だなあとつくづく思いましたね。本当に描写が上手いです。是非読んでみてください。おりえさんなら主人公の孤独を感じるかもしれません。
 ありがとうごじました。

投稿: とこ | 2010年5月 5日 (水) 07時21分

 とこさん、こんばんは!!!
森絵都さんは存じませんでしたが、とあるブログでこの方が書かれた『風に舞いあがるビニールシート』の記事を見て読みたいと思っていたのでタイムリーな記事でした。
 いつも思うのですが紹介の記事がとても素晴らしいと思います。とこさんが言葉を選び、ふさわしい語彙を駆使して物語を紹介されていて、記事自体が作品だなあと思っています。
 「語彙の選び方ひとつとっても~流れがとても自然です」はツボに入りました。ある意味ありがちな設定だと思いますが読んで見たいと思いました。
 「これは『リズム』で感じたことです。」この一文が凄く気になるんです。

 挿絵がビッタンコですね。

投稿: おりえ | 2010年5月 5日 (水) 00時55分

 茶々君のご主人様、おはようございます。そしていつも応援してくださり、ありがとうございます。
本当に春風が似合うような良い作品でした。上手く表現出来ていなくてごめんなさい。でも解ってくださって嬉しいです。
最近重いテーマでご主人様を落ち込ませてしまったりしていたので、めでたいGWくらい、明るくいこうなんて思ってしまいました。でも、これ2008年に一度書いたものの再アップなんです。ん?まだすれてない?そうかもしれませんね(笑)。
でもまだ、色んな資料で調べたり、レビューを参考にしたりで、自分らしい表現ができない(今もですが)時期ののもを
校正せずにドンと出してしまったので作品の一本化ができていなくて、すみません。でも絵本は本当に癒されますよ。
絵本なら立ち読みもできますしね。
 今日は、ご主人様も祈ってくださったので札幌も良いお天気になてきましたよ。
 ありがとうございました。

投稿: とこ | 2010年5月 4日 (火) 09時38分

KOZOUさん、おはようございます。なんか思い出しても恥ずかしいコメントを書いてしまって後悔しています。書き直したくて、メールを出しました。できれば、そちらを読んでください。すみません。
 この作品は2008年の記事の再アップで、あまり中身を校正しないでアップしてしまった為、言ってる事が解り難いですよね。私もアップしてからこんな表現、変だなとか思うところ沢山あったのに、読んでくださってありがとうございます。
登場人物がみんな一生懸命なのは本当に応援メッセージみたいですし、主人公の再生がすがすがしいです。
 私もしばらく重いテーマを扱ってきましたが、GWくらいすがすがしくという思いと、たまに更新しないと忘れられちゃうかななんて軽い気持ち、仕事からも少し離れたいという我がままで書いてしまいました。最初はちょっと苦手かなと読み始めましたが、こういう、若いのに上ずってない書き方で好きな作家さんになりました。やっぱり、食べず嫌いはいけませんね。
 本当にありがとうございました。

投稿: とこ | 2010年5月 4日 (火) 09時19分

おはようございます。
お仕事いっぱいいっぱい
頑張られておられるのですね。
お父様も声をかけたいのに
我慢されるほど
一息つかれる北海道の遅い桜
とってもきれいでしょうね。

「辛くても辛くても苦しくても、それでも生きていくんだ・・」
いい言葉ですよね。
なんども自分に言い聞かせたことが
あります。いまは思い出だけになりました。
だから応援したくなりますよね。

とっても
幅の広い
ストレートな作家さんなのですね。
絵本みてみたいとおもいました。

ありがとうございます。

今日も一日暖かき良き日で
ありますように。

投稿: 茶々 | 2010年5月 4日 (火) 05時03分

こんばんわ。
暖かく5月らしくなりました。

この作品書評は読んだことがあります。
ずいぶん惹かれるものがありました。
書かれた童話も知りませんが、ほんとにこの作品は「感覚」だけで書かれたものではないようですね。
舞台も内容も心惹かれます。
風に舞い上がるビニールシート、タイトルも意味深ですね。ついホームレスさんの青いビニールシートを思い出しますが、まったく外れてもいないようですね。
「感覚の薄い皮膜の奥にあるもっと硬質で確かな「何か」を突き詰めていこうとする、文章も「思いつき」で書かれたものではなく、語彙の選び方ひとつとっても、かなり練られていると思う」好きです、そういうのは。
ヒロインと男の再生の物語でもあるのですね。
つきのふね、もおもしろそうですね。
素直な日向を向く作家さんのようですね。
機会があればいつか読んでみたいです。

投稿: KOZOU | 2010年5月 4日 (火) 02時03分

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